現金決済、いまだに6割…紙幣流通量の半分60兆円は「タンス預金」とも
東京都葛飾区のラーメン店「豪麺MARUKO(マルコ)」の西谷寛店長(42)は不満を隠さない。小麦や豚肉など原材料の高騰が続く中、新紙幣対応は経営の足かせになる。当面、新紙幣での支払いには手作業で対応するが、「回転率が落ちかねない」と懸念する。
パチンコ業界への影響も大きい。業界団体の試算では、500台程度を置く中規模店で紙幣識別機を全台交換した場合、1500万~2500万円の負担が見込まれるという。関係者は「経営が厳しい中、業界には大きな投資になる。休業せざるを得ない店もあるかもしれない」とこぼす。
関連機器を供給する側には商機だ。現金処理機の世界大手グローリー(兵庫県姫路市)は昨年度、新紙幣対応機器やプログラム更新で売上高が500億円も増えた。現金自動預け払い機(ATM)製造大手の沖電気工業(東京都港区)も、昨年度の生産量が倍増した。更新需要は今年度いっぱい続く見込みだという。
利上げ影響は
日本の国内総生産(GDP)600兆円弱の1割を占める規模と言われる「タンス預金」の行方も注目される。手元にためていた現金を銀行に持ち込み、新紙幣に替える動きが起こると見込まれるためだ。第一生命経済研究所の試算によると、前回2004年の改刷では、タンス預金の残高が一時、前年より7・5%減ったという。
ただ今回、タンス預金が消費や預金、投資として世の中に出回るかどうかは読みにくい。
東京都内の自営業男性(84)は、「銀行窓口で使い道を聞かれるのが面倒」といった理由からタンス預金を続けてきた。今は自宅に約200万円を置いている。「新紙幣に替わっても、今のお金は使える。預金しても利息はほぼゼロだし、両替する必要も感じない」と冷静だ。
ある信託銀行員は数年前、高齢の顧客から「自宅にある現金を取りに来てほしい」と頼まれた。タンスや金庫から、聖徳太子の1万円札の束や、湿った紙幣が次々と現れ、目を丸くした。1万円札の肖像が聖徳太子から福沢諭吉に替わったのは1984年。30年以上、しまい込まれていたようだ。行員は「デフレと低金利が高齢者のタンス預金を招いたのだろう」と話す。