「マネージャーだけど主将」“鎮西の3番”への憧れを封印した最後の春高バレー…全国制覇の夢散るも「畑野先生の隣でたくさん学べた」
4年連続のセンターコートまであと一歩だった。 春高バレー準々決勝で敗れた鎮西高校の選手たちが、呆然と立ち尽くす。あふれる涙を堪えきれずに両手で顔を覆う選手や、膝に手をつき崩れ落ちる選手。それぞれがコートで悔しさを噛みしめる中、ベンチで両手で顔を覆い、一人で涙していたのが鎮西のマネージャー、香本夏輝(3年)だった。 【画像】「史上最強の小さなキャプテン」身長173cmリベロ栗原と肩を組むマネージャー香本を見る 整列を促され、ベンチから立ち上がると涙を拭い、歴代の主将が背負ってきた「3番」をリベロとして初めてつけた栗原陽や2年生エースの岩下将大ら、一人一人に歩み寄り「よくやったよ」と声をかける。 「欲を言うなら勝ちたかった。でも、みんながみんな、チームのために一生懸命戦ったので悔いはないです。本当にありがとう、という気持ちしか出てきませんでした」 香本はマネージャーであるだけでなく、ユニフォームを着てプレーすることがない鎮西史上初のキャプテンでもあった。
高校バレーボール界のエースナンバー
春高開幕をひと月後に控えた昨年末、香本の話を聞いた。マネージャーの自分が、キャプテンに抜擢されたこと。最後の春高へ向かう思い。コートに立てないからこそ、思いがあふれた。 「3番、憧れますよね。鎮西の3番は、やっぱり特別なので」 高校バレーには高校野球のピッチャーが「1」をつけるような、明確なエースナンバーはない。だが、バレーボールファンや関係者に「高校バレーのエースナンバーは?」と聞けば、おそらく多くの人が「3」と挙げるのではないか。そして、思い浮かべるのはきっと鎮西の黄色のユニフォームだろう。 宮浦健人(ジェイテクトSTINGS愛知)や鍬田憲伸(ヴォレアス北海道)、水町泰杜(ウルフドッグス名古屋)。そして、2年前、敵将に「あれぞ、THEエースと呼ぶべき選手」と称賛された舛本颯真(中央大学)など、3番を背負ってきた選手には錚々たる顔ぶれが並ぶ。 そもそも、「鎮西の3番」はチームを率いて50年を迎えた畑野久雄監督(79歳)が敬愛する長嶋茂雄氏の背番号から取ったもの。世代によってはエースばかりでなくセッターの選手がつけることもあったが、どんな時も、どんな相手にも強く、逃げずに立ち向かうエースの姿に3番を重ね、多くの選手たちが憧れてきた。香本も、その一人だった。 幼い頃から兄と同じ柔道に勤しんだ香本は、球技への憧れがあり、小学5年時にバレーボールを始めた。高い身体能力を活かしてアタッカーとしてプレー、中学2年時からセッターに転向し、熊本県選抜に選ばれた。そこでも主将を務めた。 長距離走を筆頭に動くことは何でも得意。セッターとして選抜チームの中心となった実力は、名門・鎮西でも活躍できるのではないか――ただ、日本一を目指すだけでなく、高校卒業後の将来も見据えて大型選手の強化育成に力を注ぐ同校で、身長160センチに満たない香本は小さすぎた。 選手として鎮西のユニフォームを着てコートに立つことは厳しいのかもしれない。自分に何ができるのかと模索する中、高2になった時に同校の宮迫竜司コーチから「香本には伝える力がある」とマネージャーに抜擢された。昨季の春高バレーでもマネージャーとしてベンチ入りを果たし、3位入賞に貢献。新チームが始動して間もなく、畑野監督から「今年は香本がキャプテン兼マネージャーだ」と告げられた。
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