オードリー・タン×Sakana AI伊藤錬「プルラリティ」で切り拓くアジア的テクノロジーの未来
プルラリティの力で新たな未来を
「2014年の対話による抗議活動から今日のAIを活用した政策決定に至るまで、一貫して目指しているのは、分断を協力へと変えることです。特にスタートアップの皆さんには、資源を搾取する利益追求型のモデルから、持続可能でエコシステムに基づくアプローチへと移行することを提案したいと思います。」と、オードリー・タン氏は語る。 彼女の基調講演の最後に、2016年にデジタル担当大臣に就任した際に書いたという職務内容を紹介した。 「モノのインターネットを人々のインターネットに。 仮想現実を共有現実に。 機械学習を協働学習に。 ユーザー体験を人間の体験に。 そして、シンギュラリティ(技術的特異点)が近いと言われるときはいつでも、プルラリティ(多元性)がここにあることを思い出しましょう。」 このメッセージは、彼女が一貫して追求する多元的で協力的な未来の実現を象徴するものだ。 上記オードリー・タン氏の講演には、テクノロジーとともに生きる時代において市民生活で留意すべき多くのポイントが含まれている。たとえば、フェイクニュースにどのように向き合うべきか、また、Uberのようなディスラプティブなサービスが登場した際に、どのように既存の産業やコミュニティを保護しつつ新しい技術を受け入れるべきか、といった課題だ。だが、彼女の言葉にあるように、テクノロジーを分断を生む手段ではなく、協力を促進するツールとして活用することで、冷たく効率性のみが強調されがちなテクノロジーにも人間的な温かさを感じられるようになる。この温かさが感じられるテクノロジー活用こそ、彼女の大きな魅力の一つだ。 私たちは、テクノロジーの力を活用して分断から協調へと移行する可能性を秘めている。現在、世界は多くの場面で分断の方向に進んでいるように見える。だが、もし台湾や日本のようにアジア的な思想━━多様性や相互理解を重んじる価値観━━を基盤に、テクノロジーを対話と協調のためのツールとして活用することができれば、従来の「西洋型、強力なリーダーに依存した単一的な世界」から脱却し、「対話型」で「優しさのある多元性(プルラリティ)」に基づく新しい世界を切り開いていけるのではないだろうか? そのような仮説と、オードリー・タン氏のプルラリティ(多元性)を軸にしたアプローチは、パネルディスカッションでも深掘りされ、Sakana AIの伊藤錬氏による実践的な事例が加わることで、さらに具体性を持った議論となった。