高校サッカー青森山田が“驚異飛び道具”ロングスローで4強進出。そのお家芸誕生秘話とは?
ボールがタッチラインを割るたびに、ボランチの澤田貴史(3年)はピッチの外へと向かっていった。敵陣だけでなく自陣からでも。左サイドでも右サイドでも。青森山田(青森)のお家芸と言っていいロングスローが美しい軌道を描くたびに、等々力陸上競技場のスタンドが沸きあがった。 あらかじめタッチライン沿いに置いてあった、タオルでボールを入念に拭く。そして、10mほどの距離を取って助走に入る。目いっぱい勢いをつけて、タッチラインのぎりぎり手前で急停止。加速で生じたエネルギーを、上体を反らした反動から思い切り振り抜かれようとしている両腕へと加える。 フクダ電子アリーナを含めた2会場で準々決勝の4試合が行われた、5日の第97回全国高校サッカー選手権。開始14分に矢板中央(栃木)に先制され、3試合目で初めてリードを許した優勝候補を救ったのは、173cm、70kgと先発メンバーのなかでは最も小さな澤田の体に搭載された驚異の飛び道具だった。 「相手ゴールのほぼ真ん中、ペナルティーマークくらいまでは届きます。でも、僕は(味方がいる)場所を狙って投げているので。(無理をして)距離は出さないですね」 右サイドから投じた、開始早々の一投目で餌をまいた。ターゲットはニアサイドにそびえ立つ、192cmの長身センターバック・三國ケネディエブス(3年)。強烈なヘディング弾は惜しくもバーを叩いたが、矢板中央の選手たちに警戒心を与えるのに十分な一撃だった。 三國にマークが集まる分だけ、他の味方へのマークが薄くなる。迎えた前半40分。数えて6本目のロングスローは相手の必死のクリアにあったが、こぼれ球を拾ったMF武田英寿(2年)がシュート。フリーでファーサイドにいたDF二階堂正哉(3年)が頭でコースを変えて、ゴールネットを揺らした。 再び二階堂が左足で決めた後半26分の逆転弾も、左サイドから放たれた澤田のロングスローが起点になった。一度は191cmのFW望月謙(3年)に弾かれたが、こぼれ球に詰めた澤田がファーサイドへパス。FW佐々木銀士(3年)が頭でわずかにコースを変えたボールが、二階堂のもとへ収まった。 開幕直前になって、青森山田を率いる黒田剛監督(48)はシステム変更を決断した。長短のパスを配球する天笠泰輝(3年)をアンカーに置く[4-1-4-1]から、ボランチを2枚にする[4-2-3-1]へ。天笠の相棒に指名されたのが、主にサイドバックでプレーしてきた澤田だった。 「監督から急に呼ばれて『お前を守備的なポジションで使いたい』と。最初は何を言われているかわからなかったし、なぜこのタイミングで、と思いましたけど、スタートから使ってもらえるのは本当にありがたいことだと、逆にいい意味でとらえました」