2021年開催方針が決まった東京五輪 「延期論」を発言で振り返る
7月24日に開会予定だった東京五輪・パラリンピックの延期が決まった。安倍晋三首相と国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が3月24日の電話会談で「1年程度の延期を軸に検討する」ことを確認した。延期の原因となったのは世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス。“見えない敵”の予測不能な影響に翻弄される形となった東京五輪だが、「延期論」「中止論」が語られ始めてから1か月足らずで延期が決定した。ポイントとなった発言や動きを海外報道なども交えて振り返る。
IOC古参委員が切り出した「中止論」
「新型コロナウイルスの影響で、東京でオリンピックを開催するのが危険過ぎると判明した場合、主催者は延期や移動するよりも完全に中止する可能性が高い」
AP通信がIOCの最古参委員であるディック・パウンド氏(カナダ)の言葉として報じたのが2月26日。当時、感染場所として注目を集めていたのは発生源とされる武漢市を中心とする中国と、横浜港に停泊していたクルーズ船「ダイアモンド・プリンセス」だった。 新型コロナウイルスの感染者はその後、欧米先進国で急増していった。3月11日には世界保健機関(WHO)が「パンデミック(世界的大流行)に分類されるという判断に至った」と発表した。
欧州で感染拡大、「延期論」の登場
これと前後して、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(3月10日付)が報じたのが、東京五輪・パラリンピック組織委員会・高橋治之理事による「新型コロナウイルスの影響でこの夏に五輪が開かれない場合、最も現実的な選択肢は1、2年の延期だ」との見解だ。
米トランプ大統領も12日、記者団に「1年延期した方が良いのではないか」「無観客試合ばかりになるよりよっぽど良い」と述べたことが伝えられている。
IOC判断、右往左往
感染が欧州全土に広がり、収束の見通しが不透明になる中で、安倍首相は3月16日夜、主要7か国(G7)首脳とのテレビ電話会議に臨んだ後に、「人類が新型コロナウイルスに打ち勝つ証しとして、(大会を)完全な形で実現することについて、G7の支持を得た」ことを明らかにした。 IOCのバッハ会長も17日、各国際競技団体(IF)との臨時電話会談で、東京五輪を予定通り開催する方針を改めて示した。IOC自体も公式サイトで「開幕4か月以上前の段階で抜本的決断を下す必要はない。いかなる憶測も現時点では生産的ではない」と表明。浮上しつつあった延期や中止論を一蹴した。 IOCのこの姿勢に対して、海外のトップアスリートたちから批判が相次いだ。2016年リオデジャネイロ五輪の女子棒高跳で金メダルを取ったカテリナ・ステファニディ選手(ギリシャ)は17日、「IOCは選手が毎日トレーニングをすることで私たちや家族、公衆の健康を危険にさらし続けたいのだろうか?」とツイッターに投稿した。 異論は国内からも。20日付の朝日新聞で、日本オリンピック委員会(JOC)の山口香理事が、「アスリートが十分に練習できていない状況での開催は、アスリートファーストではない。延期すべき」と述べた。 批判はついには出場ボイコット表明にまで発展した。カナダのオリンピック委員会・パラリンピック委員会は22日、「(大会が)2020年7月から予定通り開催されるとしたら選手団は参加しない」と表明。同時に開催の1年先送りを要望した。これに続く形でオーストラリアやニュージーランドも今年開催なら参加を見送る姿勢を示した。米国の水泳連盟や陸上連盟からも延期を望む声が出た。 アスリートや各国オリンピック委員会、競技連盟からの反発や選手派遣拒否の動きが広がる中、IOCは22日に臨時理事会を開き、それまでの方針を転換して、大会延期の検討を含め、4週間以内に結論を出すとの声明を発表した。23日には複数の米国メディアによって、巨額の放映権契約をIOCと結ぶ米テレビ局NBCが「IOCの決定を支持する」と表明したと報じられた。
そして24日夜、安倍首相とバッハ会長との電話会談が急きょセッティングされた。同席していた森喜朗・大会組織委員会会長によると、会談では新型コロナウイルスの感染状況が世界的に悪化していることを踏まえ、年内開催は不可能であるとの認識のもと(1)東京五輪を中止としないこと(2)遅くても2021年の夏までに開催すること――などで合意したという。 新型コロナウイルスという未知の病気に翻弄され、延期が決まった東京五輪。24日夜に森氏とともに会見した組織委の武藤敏郎事務総長は、「延期は(オリンピック)史上初めての事」と話し、会場の確保やボランティアの再調整など課題が山積していることを吐露した。