『降り積もれ孤独な死よ』佐藤大樹の猟奇的な笑みの恐ろしさ 描かれた親子の複雑な関係性
ノーマークだった人物が捜査線上に浮上し、事件は大きく動き出す。『降り積もれ孤独な死よ』(読売テレビ・日本テレビ系)第6話では、灰川邸事件の真犯人が沈黙を破った。 【写真】蒼佑(萩原利久)にこれまでにない表情で語りかける鈴木(佐藤大樹) ゴヤの『我が子を食らうサトゥルヌス』の絵画を購入したのは、新人刑事の鈴木(佐藤大樹)だった。花音(吉川愛)が見つけた灰川(小日向文世)の日記には、実の息子に関する記述があった。 鈴木が絵画を購入していたとして、それだけでは13人の少年少女が餓死した灰川邸事件の犯人が鈴木であると断定できない。鈴木に子どもたちを殺める動機があり、実際に灰川と血縁関係にあることを立証するため、警察は鈴木を取り調べる。この攻防が第6話前半の山場となった。 鈴木はいつもの後輩キャラから打って変わってしぶとい対応を見せる。警察のやり口を熟知する鈴木は冴木(成田凌)の差し出したコップに口をつけず、逮捕に至っていないことから任意取調べであることを逆手にとって堂々と警察を辞去した。しかし、ギリギリで髪の毛を入手した五味(黒木メイサ)の機転によってDNA検査が実施された。 鈴木が灰川の実子であると判明するのと同時に、鈴木本人の口からも事のあらましが語られる。それは拘束された花音と蒼佑(萩原利久)に対してだった。客観的な事実と歩調を合わせるように、同時並行で今度は主観面にフォーカスする切り替えが巧みだった。 捨てられた時に着ていたベビー服に縫いつけられていた単語が「JUNE」だったから「ジュン」。児童養護施設で育った鈴木は、誕生日になると届けられる鉢植えの送り主をいつからか実の親だと思うようになった。鈴木少年は灰川の住まいを探し当てるが、そこで見た子どもたちに愛情をそそぐ灰川の姿と、自分に対する態度にショックを受ける。 灰川は鈴木との血縁関係を否定し、邸に来るなと念を押す。父への思慕を断ち切れないまま灰川が育てる“子どもたち”への恨みを募らせる鈴木は、子どもたちをだまして地下室に誘いこんで餓死させた。父への愛に飢えていた鈴木は、自分と同じ苦しみを味わわせるため犯行に及んだ。警察官になり、捜査資料を通じて生き残った6人に接触を図った。 苦悩する犯罪者の心理を演じた佐藤大樹 愛されキャラである鈴木の裏の顔は冷酷な知能犯であり、笑顔の陰にサイコパスめいた狂気を飼いならしていた。否、虐待家庭出身の子どもたちを手にかける鈴木自身が、血縁と肉親の情の間で引き裂かれており、苦悩する犯罪者の心理を佐藤大樹は説得的に演じていた。 https://twitter.com/taiki__official/status/1822605362194952206 鈴木の灰川に対する心情、またその逆を含む父子の複雑な関係性を描くために、いくつかの異なる時制が用いられている。まずは31年前、上川周作演じる灰川青年が産まれたばかりのジュンを施設の玄関に置くまで。灰川青年は夫のDVから逃げてきた女性・深雪(小島藤子)との間に子どもを授かるが、深雪とは結婚できずやむなく赤ん坊を施設に預ける。 前述した少年時代の鈴木と灰川の邂逅。時代を下り警察官になった鈴木が勾留中の灰川と面会するシーンまで、数奇な運命を生きる父と子の逸話を複数の視点から取り上げることで、灰川邸事件の犯人である鈴木を生み出すに至った関係を浮き彫りにした。その上で花音と蒼佑の反問を通じて、灰川が身を挺して鈴木を守ったかもしれない可能性を示した。 監禁場所を突き止めた冴木が自身の内なる衝動を抑えることができず、拳を振るう場面で第6話は終わったが、引き込まれるようなクライムサスペンスの緊張感が一話を通して持続していた。灰川邸事件が良い終わり方をしないことは、7年後の現在、五味の言葉を通して明らかになっている。人間存在のダークサイドに切り込む本作が観る側に何を残すか引き続き注視したい。
石河コウヘイ