【インタビュー】見知った場所を離れ、何かを“超える”経験が、私たちを強くする―「モアナと伝説の海2」製作陣がこめた思い
大ヒットディズニー映画の続編「モアナと伝説の海2」が、12月6日に公開される。このほど映画.comでは、製作陣にインタビューを敢行。続編の構想やコンセプト、新たなチャレンジなどを、たっぷりと語ってくれた。(取材・文/編集部) 【フォトギャラリー】「モアナと伝説の海2」新キャラクターをチェック 第89回アカデミー賞をはじめ数々の映画賞にノミネートされ、日本では興行収入51億6000万円を記録した「モアナと伝説の海」(2017)。海と特別な絆をもつ少女モアナが、傷付き悩みながらも、自分の進むべき道を見つけるため冒険に出る物語を紡いだ。モアナが憧れの海への思いを歌う楽曲「どこまでも~How Far I'll Go~」も人気を博した。 続編の舞台は、前作から3年後。少し大人になったモアナは、まだ見ぬ海のどこかにいる“仲間”を探していた。そんなある日、人間を憎み世界を引き裂いた「嵐の神の伝説」を知ったモアナ。美しい海と世界に危機が訪れていることを知った彼女は、全ての海をつなぐ1000年にひとりの“導く者”として、海を分断する呪いを解き、再び世界をひとつにするため、生きては帰れないかもしれないほど危険に満ちた、海の果てへ向かう冒険に旅立つ。 インタビュー対象者: デイブ・デリック・Jr.(監督)、デイナ・ルドゥー・ミラー(共同監督&脚本)、クリスティーナ・チェン(製作) ――「モアナと伝説の海」は世界中で大ヒットし、2023年時点の配信サービスのなかで、世界で最も視聴された映画となりました。前作の大ヒットの反響はいかがでしたか。また、そのような社会現象を、どのように見つめていらっしゃいましたか。 デリック・Jr.監督「この『モアナ』の世界が、皆さん、お好きなんだと思います。没入できるし、行ってみたいと思える世界観。僕も皆さんと同じで、モアナが大好きです。彼女は勇気があって、ほかの人のために動くことができて、共感力をもっていて。よく僕らも言っているんですが、決して諦めることをしない。モアナという素晴らしいキャラクター、美しいビジュアル、物語、音楽があるから、魅力的に受け入れられたんだと思います」 ――続編製作が決定した経緯と、続編の構想やコンセプト、どのように物語を膨らませていったのか、教えてください。 デリック・Jr.監督「最初は、いろんな問いかけから始めました。どうしたら、海を全てつなげることができるのか。モアナはなぜほかの島にいる民を見つけられないでいるのか。前作は過去とつながる物語ですが、本作は未来とつながる物語。その象徴として、幼い妹シメアが登場します。モアナは、島全体の未来を考えて、全ての民をつなげたいと考えているんです」 ――前作と比較して、「変えないようにこだわった部分」と、「新たにチャレンジした部分」のふたつを、それぞれの視点で、教えてください。 ミラー監督「モアナというキャラクターは確立されているので、変えたくはありませんでした。ものすごい旅を経験していくなかで、いろんな形で、『自分自身が何者なのか』を、すでに彼女は見つけていますから。モアナには後戻りするのではなく、前進してほしかった。前回と違う部分というと、今回は仲間と一緒なんです。ひとりで受けて立つことができる試練にも、守らなければならない仲間がいるだけで、その選択が変わってくると思います」 チェン「今回、リーダーとしてのモアナが見られるのはもちろん、先ほどデイナも言っていたように、彼女が戦うことのリスクや、ヴィランの強さを、レベルアップさせたかったんです。前回は冒険へ旅立ったときに、その旅がどこへ向かうのか、何を意味するのか、モアナは分かっていなかったんです。でもモアナも年を重ねて、今回は何を置いていくのか、どんなものを失いうるのか、十分に分かったうえで彼女は旅立つ。だからこそ、その彼女の覚悟に見合うだけのヴィランを登場させたいと思いました」 デリック・Jr.監督「おふたりの言葉通り、さらに世界を広くすること。そして、本当にたくさんの生き物を登場させました。地下にいて口をパクパクさせているマッドスキッパー(トビハゼ)やコウモリ、先祖を表現している大きな鯨のキャラクターも登場するので、ぜひ注目してください」 ――本作の魅力のひとつといえば、やはり素晴らしい音楽です。特に前作の「どこまでも~How Far I'll Go~」は、ディズニーアニメの歴史においても最高峰の名曲だと思います。選ぶことは難しいかもしれませんが、本作で特にお気に入りの楽曲とその理由、劇中での見どころポイントを、お聞かせください。 ミラー監督「本作では幸運なことに、エミリー・ベアーさん、アビゲイル・バーロウさんが、前作のマーク・マンシーナさん、オペタイア・フォアイさんに加わった素晴らしい作曲チームに恵まれました。彼女たちは若く、先駆け的な存在で、モアナと同じく道を切り開いているので、モアナの気持ちが分かると思うんです。そのなかで彼女たちが、心から響く楽曲を作っていて、全部大好きなので、選べないですね……!」 チェン「その通りですね。私は毎日、好きな曲が変わるんです」 デリック・Jr.監督「もちろん全曲好きなんですが、思いっきり笑える曲もあるし、今回のテーマのひとつでもある『モアナがどこまでいくのか』に答えるような曲もあります。今回はマウイの曲がふたつあり、すごく面白いエンパワーメントの曲と、エモーショナルな曲があり、私は後者が好きかもしれません」 ――前作から3年が経ち、モアナ自身が1000年にひとりの“導く者”として、より責任のある立場になりました。だからこそ大切なものが増え、新たな冒険に出るのは、かつてとは比べものにならない勇気が必要だということが伝わってきました。これは、子どもから大人まで、幅広い世代に刺さるポイントだと感じたのですが、物語にこめたメッセージをお聞かせください。 デリック・Jr.監督「パワフルな船出のシーンからは、共同体の強さが感じられると思っています。前回、モアナは夜中にひとりで旅に出ましたが、今回は違いますよね。皆が集まって、祝福されながら旅立ち、仲間がいて、ロトがデザインした新しいカヌーにのって。観客も、そこで歌われる楽曲にモチベーションが上がり、元気になるようなシーンになっています」 「誰しも人生のどこかの段階で、もしかしたら自分が快適だと感じる見知った場所あとにして、(本作の劇中曲タイトルでもある)『ビヨンド』、それを『越えた』場所に行かなければいけないときがあると思います。たったひとりじゃなくて、コミュニティや仲間と何かを越えることができれば、その経験は私たちを強くしてくれる。そうしたメッセージを伝えたいと考えていました」 ――前作でも、ポリネシア文化について徹底的なリサーチが行われたと伺いました。本作でも、リサーチのなかで気付かれたことや、その気付きがストーリーに反映されたことなどがあれば、教えてください。 デリック・Jr.監督「いろいろとありますが、そのなかのひとつが、カヌーの作られ方ですね。先住民の方は叡智の結集で、釘などを一切使わずに、紐だけでカヌーを作っていたので、その要素はしっかり反映させようと考えました」 ――デリック・Jr.監督とミラー監督は、サモアにルーツがあると伺っています。そういうご自身のルーツという観点での、主人公モアナや物語への思い入れを、教えてください。 ミラー監督「前作にはもちろん、すごく思い入れがありますし、人生が変わるような作品でした。これまで映画で、そこまでパシフィック・アイランドの文化が描かれたことはなかった。ですが、ディズニー・アニメーション映画の大きなスクリーンで、そうした文化が祝福されているところを、世界中の人々に見てもらえた。それに感動しましたし、今回は共同監督を務めることに、すごく責任を感じました。自分も人々のために良いもの、素晴らしいものを作らなければいけないと思うと同時に、大きな喜びもありました。モアナの続きの物語を手がけることを特別に感じ、深い愛をもって取り組んでいます」 デリック・Jr.監督「自分も大きな責任を感じていましたが、1番最高だったことのひとつは、デイナと仕事ができたことです。ふたりとも、サモアにルーツがあって、お互いに頼り合いながら、素晴らしいものにするんだというゴールをもって、自分たちの文化を世界にお見せするんだという気持ちで仕事ができたことが、代えがたいほど特別なことでした」