ディズニー社が「消さないと訴える」学校プール底に描かれた“ミッキー”削除要求…日本の小学生にトラウマ与えた「都市伝説」の真実
実は合法だった!?
法的評価以前の問題として、大企業が、小学校で小学生が善意でやったことに「訴えるぞ」と迫ったことが、消費者コミュニケーションの在り方として信じられない。 しかもこのプールの絵は、実際には著作権侵害とは言い難い。実は著作権法上、学校等の教育機関において、教師や生徒は「授業の過程における利用に供することを目的とする場合」であれば、必要限度で他人の著作物を複製することができると定められている(第35条)。つまり、権利者に無断で描いても合法ということだ。 わが国の著作権法は、教育課程における充実した教育を重要視し、その中で著作権者の利益が多少の制限を受けることは是としているのである。 典型例としては、国語の教科書に載っている詩や小説を黒板やノートに書き写したり、社会科の授業で新聞記事を発表資料に利用したりするケースが挙げられるが、卒業制作でプールの底にミッキーマウスの絵を描くことも、これに含まれる。 なぜならば、この条文における「授業」には、いわゆる典型的な座学の「授業」だけでなく、運動会や文化祭、入学式、卒業式、修学旅行といった学校行事も含まれると解釈されているからだ。こうした行事は、生徒たちが人間関係をよりよく形成するための教育課程のひとつだからである。 学校行事でキャラクターのイラストを描くことについて、文化庁は、Q&Aの体裁で、以下の見解を述べている。 Q:教師Dさんが担任するクラスで、学校の文化祭の準備のため、人気キャラクターを看板に描くことになった。 【回答】人気キャラクターを看板に描く行為は複製行為と考えられ、文化祭の準備目的は「授業の過程における利用に供することを目的とする場合」に含まれるので、権利者の許諾は不要*2。 *2 文化庁 2021年6月28日『令和3年度著作権セミナー(富山県会場)』文化庁著作権課著作物流通推進室長 日比謙一郎「学校教育と著作権―授業目的公衆送信保証金制度を中心に―」 不要なのだ、権利者の許諾は。 実際、ある大手出版社の法務部に勤める知人に話を聞くと、運動会や文化祭の季節になると、ときどき学校の先生などから、看板や旗にキャラクターの絵を描いてよいか、問い合わせがあるという。その出版社では、上記の見解に基づき、その場で問題ないことを伝えているそうだ。 ただし、「あくまで授業の過程における使用に供する(役立てる)」目的が一貫して認められなければならない。著作権制度の普及・教育・研究活動をする公益団体・著作権情報センターは、「運動会等の教育活動を終えても常設的に展示するような場合であれば、無断で利用できる条件を満たさない可能性があります」*3と、注意点を述べる。 *3 著作権情報センター 大和淳「学校教育と著作権」 むむむ。晴嵐小の卒業制作でプールの底に描いたミッキーマウスの絵は、しっかりとペンキで塗られたものだ。卒業式が終わってもずっとプールの底に残り続ける。ならばやはり、著作権侵害になるのだろうか。 ディズニー社も、5月になってからクレームをつけてきたところを見ると、「卒業式が終わっても絵が残ったまま」であることを問題視して、アクションを起こしたのかもしれない。ああ、やはり著作権マフィア・ディズニーの言い分は正しいのだろうか……。