和歌山カレー事件、林眞須美の「死刑」判決の真実はどこへ? 「報道の過熱によって、見えるものが視えなくなっていった」26年目の真相を追う映画『マミー』の監督が問うメディアの在り方
メディア全体で再検証してもらえるようになれば…
━━監督ご自身は、当初、林眞須美について「犯人に間違いない」と思い込まれていたそうですが、取材する中でこれは「冤罪」だと考えが変わられていったのでしょうか? いまは、冤罪の可能性が高いとは思っています。ただし、「無実」なのかどうかは私には、わかりません。ただ、裁判の認定において、明らかにこれはおかしいだろうという点があり、それが見過ごされたままになっているということに疑問を持っています。 あと、この映画によって、そうか、これは報じてもいいんだとメディア全体で再検証してもらえるようになったらという希望をもっています。 ━━なるほど。映画は衝撃的なラストを迎えます。あの場面を加えずに映画として終わるという選択もあったように思いますが。 この事件の根幹にあるのは、マスコミの報道の在り方についてだと思っています。「メディア・スクラム」とも言われた報道の過熱によって、見るべきものが視えなくなっていった。この映画は、そこを批判的に描いています。 たとえば、冒頭の被害者家族の男性が事件現場跡で花を手向けるシーンで、集まっていた取材記者が「いまのを、もう一回」とお願いするのを見せています。メディアを批判的に捉えてきたにもかかわらず、自分の中にも彼らと同根のものがあった。俯瞰して見ていたはずの自分もまた、批判されるべき側のひとりでもあるというのは描いておく必要はあると思ったんです。 ━━それは自身を断罪するような? そうですね。当時あの事件が起きたときに自分がいたらと考えたときに、ある種の正義感や功名心から、同じことをしていたのかもしれない。そう思いもしました。 取材・構成/朝山実 サムネイル/(C)2024digTV 映画『マミー』 8月3日(土)より東京 シアター・イメージフォーラム、大阪 第七藝術劇場ほか全国順次 監督:二村真弘 プロデューサー:石川朋子、植山英美(ARTicle Films) 撮影:髙野大樹、佐藤洋祐 オンライン編集:池田聡 整音:富永憲一 音響効果:増子彰 音楽:関島種彦、工藤遥 製作:digTV 配給:東風 2024 年/119 分/DCP/日本/ドキュメンタリー (C)2024digTV
二村真弘
【関連記事】
- 林眞須美の長男が誹謗中傷にあい、一時は映画公開中止の危機も…和歌山カレー事件を追った映画『マミー』、眞須美の夫・健治氏が出した「取材を受ける条件」とは…
- 〈和歌山カレー事件から24年〉林眞須美さんは本当に犯人なのか? ミス、不正、捏造だらけの鑑定結果にメディア人として思うこと
- 「死刑がなくなってほしい。誰にもこんな経験をしてほしくない」“麻原彰晃の娘”が語る、オウム真理教の教祖を父にもつということ
- 宮崎勤によって人生を狂わされた人々の“その後”。「あの事件以来、家族関係がゴタゴタして…。こうなったのは誰のせいですか?」#3
- 「あいつは死刑囚の手記をよく読んでいた」…附属池田小事件・宅間守の常軌を逸した“性衝動”と“自殺願望”。「オヤジは相変わらずや。やっぱり殺しておけばよかったんや」