和歌山カレー事件、林眞須美の「死刑」判決の真実はどこへ? 「報道の過熱によって、見えるものが視えなくなっていった」26年目の真相を追う映画『マミー』の監督が問うメディアの在り方
映画『マミー』・二村真弘監督インタビュー#2
1998年におきた「和歌山毒物カレー事件」を検証した驚愕のドキュメンタリ映画『マミー』(8月3日公開)は情報公開以降、映像にも登場する林眞須美の長男が予想以上の嫌がらせを受ける事態に発展…公開中止も視野に入れられたなか、一部の映像を加工し公開することになった今最も話題の映画といえる。事件発生から26年が経っているが、再審請求で弁護団が提出している科学鑑定、捜査への疑問を検証したことについて、監督の二村真弘氏に聞いてみた。 【画像】この映画を撮るキッカケにもなった林眞須美・健治夫妻の長男
ヒ素の科学鑑定は林家のものだけに限られていた…
━━映画の中で、自白も物証もない中で出された林眞須美に対する「死刑判決」に対する疑問を取り上げられています。とくに三点に絞られたのはなぜですか? 二村真弘監督(以下、同) 裁判の中で、林眞須美が犯人だとする根拠とされたのが、大型放射光施設Spring-8を使ったヒ素の科学鑑定と、林眞須美が現場に一人でいるところを見たという女子高生の目撃証言。もうひとつは、ヒ素を使った保険金詐欺を繰り返していたという証言です。重要なポイントにもなっていたので、この3点についてはきちんと検証すべきだと考えました。 カレー鍋にヒ素を混入する際に使ったとされる紙コップに付着したヒ素の成分が、林家にあったもの(林健治さんがシロアリ駆除の仕事をしていた頃に購入していた)と成分が一致したことが裁判では重要証拠と認定された。 しかし、取材をしていくうちに、和歌山市内で同じ工場で生産されたヒ素がシロアリ駆除剤として広く使われていたこと、さらに近隣に林家以外にもヒ素を所持している住人がいたこともわかってきた。それにも関わらず、科学鑑定は林家のものだけに限られていました。 ━━見ていて首を傾げてしまったのは、当初の捜査の調書で「一階のリビングのカーテン越しに見た」という、林眞須美が鍋に毒物を入れたとされる唯一の目撃証言が、なぜか法廷では「二階の自室のベッドに寝転がりながら外を見ていた」にすり替わっていた点です。現場検証で、一階からだと遮るものがあって見通せなかったのがその理由なのか。証言の書き換えは、この映画のスクープにあたるのでしょうか? いいえ、証言の書き換えは元の裁判の中でも指摘されていることです。 また、目撃証言の曖昧さについても、すでに林眞須美さんの弁護団が再審請求をする際に「新証言」として出しているもので、この映画の中に出てくる内容はほぼすべて、カレー事件を取材をしてきた大半の記者、テレビ局のディレクターたちも把握していることです。 弁護団が主催する勉強会などを取材すると各メディアはその場にいて、用意された資料を持ち帰っている。だから目撃証言のあやふやさも、すべて把握しているはず。その上で、報じるか報じないかの判断があるんでしょうけど。
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