「撮影禁止」「売店こちら」「多言語表示」…際限なく「看板」が出迎える日本の観光地。今こそ成熟した<大人の対応>にシフトすべき アレックス・カー×清野由美
◆看板よりも頼るべきもの 言語に限っていえば、日本語と英語、もしどうしても必要なら中国語、という3か国語でほぼ事足りるはずです。 しかも今はアプリを使った翻訳の精度が日進月歩で高まっている時代です。テクノロジーの発展に任せられるところは、どんどん任せればいい。それでも多言語での説明が必要な場面では、説明用のパンフレットやオーディオガイドの方で多言語展開をすればいいのです。 一つの救いは、日本の役所が、そのような認識をベースにし始めていることです。 たとえば観光庁は「観光立国実現に向けた多言語対応の改善・強化のためのガイドライン」(2014年)で、「駅名表示、立ち入り禁止、展示物の理解などに関する基本ルールは、日本語と英語の2言語」と記しています。つまり、際限なく広がりがちな多言語表示について、ルールを示しているのです。 一方で総務省も、2020年東京オリンピック・パラリンピックを前に、交番、観光案内、入国管理などを想定した自動翻訳の導入を推進し、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が日本語、英語、中国語、韓国語、ベトナム語など31言語の翻訳が可能なスマートフォン向けアプリ、「VoiceTra」を開発しました。 景観を壊す看板による多言語表示ではなく、アプリなどを用いたテクノロジーによる解決は、上手に進めていただきたい動きの一つです。
◆翻訳で陥りがちな失敗 多言語化について少し補足をするならば、翻訳の質にも注意することが必要です。日本では、翻訳する際に起こりがちな失敗が二つあります。 一つは、せっかく多言語にしても、翻訳の質が低く、かえって対象の価値を損ねてしまっているパターン。もう一つは、欧米人や中国人向けの案内を、相手側ではなく日本人から見た興味だけで書いてしまうことです。 観光客が興味を持つポイントは、それぞれの母国の文化によって違いますし、また興味を満足させるための文章表現、スタイルも変わってきます。そのためには、外国からのインバウンド動向に詳しく、文章表現のスキルのある人に頼む必要があります。外国人の翻訳なら誰でもいいわけではないのです。 翻訳には、その国の文化レベルが如実に現れます。翻訳は、きちんとしたプロにお願いして欲しいと強く感じています。
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