「撮影禁止」「売店こちら」「多言語表示」…際限なく「看板」が出迎える日本の観光地。今こそ成熟した<大人の対応>にシフトすべき アレックス・カー×清野由美
◆近ごろの神社仏閣は「指示」「注意」「商売」に 『観光亡国論』の著者の一人であるアレックス・カーは日本の「神道」に関心を持ち、インバウンドツアーに向けた特別参拝の手配や、神道の歴史についてのレクチャーなどを行ってきました。 神社と神道の儀式は、水で「禊」、「大幣」で清め祓いを行い、「祝詞」をあげて「祓へ給ひ清め給へ」と願うなど、あらゆる形で潔癖で、清らかな「神の世界」を表しています。 「神社の境内は『神が宿る地』ですので、参拝する際には手と口を清めます」と、外国からの参加者には説明します。が、その後でみんなを連れて神社を訪れると、境内は見苦しい看板だらけ。潔癖どころか、ゴミゴミした環境を見て、「清らかさはどこにあるのか」と彼らに聞かれます。 確かに近ごろの神社仏閣は、歴史や信仰というよりも「指示」と「注意」、または客を迎える「商売」の場になってしまっています。 寺社がそのような状況であれば、町中はいわずもがな。通りを歩けば、店や商品の宣伝看板の洪水。聖域から俗域まで、都会から田舎まで、いたるところ看板だらけで、それが景観への大きな阻害要因になっているのです。
◆キリがない「多言語表示」は必要なのか 看板公害とは、インバウンドが急増する以前から、日本の観光名所に長く存在していた問題でした。つまり、観光に関連した問題は、全部が全部、インバウンドによって引き起こされたものではない、ということです。 最近では、世界各国から観光客を日本にお迎えしましょう、という背景もあり、英語、中国語、韓国語、フランス語、スペイン語、アラビア語と、看板に記される言語にもキリがない状況があります。国際的な観光機運の中で、多言語表示は、基本的には良いことではあります。 ただし日本の場合、インバウンド増加を呼び水に、もともと過剰な看板が多言語化して、2倍、3倍と増えていく事態を招きかねません。 実際に福岡県のあるお寺では、外国人観光客が急増したことで、境内での飲酒飲食やスケートボードの乗り回しなどマナー違反も急増。12か国語でマナーを喚起する看板を設置しました。しかし、それでも効果はなかったそうです。 さらに気をつけるべきは、観光名所や商業施設などで、マナー喚起のアナウンスを多言語でエンドレスに流す動きです。 看板は目をそらせば見なくてすみますが、耳を直撃するアナウンスからは逃れられず、それは精神的なストレスになります。アナウンスにも適切なやり方を取り入れなければ「視覚汚染」のみならず「聴覚汚染」も広がってしまいます。
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