F1候補生、初の日本人女性が挑む世界に誇るドライバーズレース【2024年スーパーフォーミュラをイチから学ぶ】
日本国内におけるフォーミュラ・ピラミッドの頂点に位置する“SF(エスエフ)”こと全日本スーパーフォーミュラ選手権の2024年シーズンが、今週末3月9~10日に行われる鈴鹿ラウンドで開幕する。 【写真】2024年シーズンのスーパーフォーミュラに参戦するJuju(野田樹潤) 本稿ではシリーズの基本情報をはじめ、すでにアナウンスされている今季のドライバーラインアップやカレンダー、前年からの変更点、放送情報などを整理し、初めてスーパーフォーミュラを見るという方にも分かりやすくお伝えしていく。 ■半世紀の歴史を持つ国内トップフォーミュラ・シリーズ スーパーフォーミュラは1973年の全日本F2000選手権から続く日本最高峰のフォーミュラカー・レースシリーズだ。時代に応じて開催スタイルや名称を変えてきたが、日本最高峰としての位置づけは変わらず、つねに日本最速ドライバーの座を争う熱き戦いが繰り広げられてきた。 そして2016年、現在のシリーズ名称である全日本スーパーフォーミュラ選手権へと名前を変え、その競争レベルの高さも相まって世界からも注目を集めるシリーズに成長。昨季2023年には国内トップフォーミュラ50周年の節目を迎え、今年は51年目のシーズンがスタートすることになる。 ●スーパーフォーミュラ/国内トップフォーミュラの歴史 1973年~ 全日本F2000選手権 1978年~ 全日本F2選手権 1987年~ 全日本F3000選手権 1996年~ 全日本選手権フォーミュラ・ニッポン 2013年~ 全日本選手権スーパーフォーミュラ 2016年~ 全日本スーパーフォーミュラ選手権 現行シリーズの特徴はクルマの基本となるシャシー(車体)、および装着するタイヤが単独供給される“イコールコンディション・レース”であること。前者はイタリアの名門レーシングコンスタラクターであるダラーラが、後者は横浜ゴムがサプライヤーとなっており、それぞれ共通スペックの製品を全チームに供給している。 550馬力以上の出力を発揮する搭載エンジンについてはトヨタとホンダの2社が供給するが、近年は特別大きな競争力の差は生じておらず、すべてのエントリーで車両性能にほぼ差がないと言える。それだけにチームのエンジニアリング力、そしてドライバーの腕が戦績を左右する割合が大きく、日本最高のドライバーズレースとも評される所以となっている。 ■カーボンニュートラルに対応したSF23 マシンについてもう少し詳しく説明しよう。今シーズン使用される車両は『SF23』と呼ばれるダラーラ社製のフォーミュラカーで、その名が示すとおり昨季2023年に新規導入されたクルマだ。 先代の『SF19』と同様に基本コンセプトの“クイック&ライト(素早く動き&軽くて軽快)”が継承されたこのマシンでは、さらにフォーミュラカーらしいキビキビとした動きや操縦性が実現された。また、接近戦となった際に乱気流によって後続のマシンのダウンフォース(マシンを地面に押し付ける力)が抜け、目の前のクルマに近づけなくなる状況を改善するためのエアロダイナミクス(空力)開発が進められ、新型車ではよりドライバーの力が発揮できるよう新たなエアロパッケージが装着されている。 そんな『SF23』はカーボンニュートラルに対応したマシンであることも特長のひとつだ。具体的には、カウル(外装)に麻由来の天然素材などを使用し、製造過程で排出されるCO2(二酸化炭素)を従来比で約75%抑制することができるバイオコンポジット素材を採用している。また、横浜ゴムが供給するドライ路面用のスリックタイヤ『ADVAN A005』とウエット路面用のレインタイヤ『ADVAN A006』は、いずれも原材料にサステナブル素材が使用されたレーシングタイヤとなっている。 さらに、シリーズはこの2024年に向けてカーボンニュートラル燃料(CNF)の導入を目指しており、早ければ今シーズン途中にも現在使用されている市販のガソリンからCNFに変更される可能性がある。 ●『ダラーラSF23』主要諸元 車両名称/SF23 全長/5235mm 全幅/1910mm 全高/960mm ホイールベース/3115mm 車両最低重量/677kg以上(ドライバー含む) ミッション/リカルド製 6速パドルシフト デフ/メカニカル式デフ サスペンション(フロント)/プッシュロッド+トーションバースプリング サスペンション(リヤ)/プッシュロッド ブレーキ/ブレンボ製 6ポットキャリパー+カーボンベンチレーテッドディスク ホイール(リヤ)/13×15.0J タイヤ(フロント)/270/620R13 タイヤ(リヤ)/360/620R13 エンジン/TRD 01F(トヨタ)/M-TEC HR-417E(ホンダ) 排気量/2000cc 気筒数/直列4気筒直噴 過給器/ギャレット製ターボチャージャー 出力/405kW(550PS)以上 出力規制/燃料リストリクターによる燃料流量制限 エンジン最低重量/85kg以上 ■追い抜きやタイムアップを促進する“オーバーテイクシステム” SF23が搭載するスーパーフォーミュラ独自のアイテムとして、オーバーテイクシステム(OTS)が挙げられる。その名のとおりレース中のオーバーテイク(追い抜き)を促進する機能であるOTSは、ざっくりと言えばブースト機能だ。ドライバーがステアリング上のスイッチを押すと、作動期間中エンジンの出力が通常よりも上昇する。これにより追い抜きをしやすくするほか、ラップタイムの向上にも役立てられる。 このシステムはトヨタとホンダの2社が供給する2.0リットル直噴4気筒ターボエンジン(NRE=ニッポン・レース・エンジン)に搭載された燃料流量リストリクターによって制御されている。OTSを使用できる時間は1レースにつき200秒。ドライバーはこの時間内であれば何度でも使用することができるが、一度作動させると一定時間は使用できなくなる。 各車のOTSの使用状況はコクピット後方のロールバーに取り付けられたLEDランプで確認できるが、ここで示されるのは残り秒数の目安と使用不可能なタイミングのみ。実際に作動しているタイミングは、後述する公式アプリ『SFgo』でのみチェックすることが可能だ。なお、OTS残量については200秒から20秒までがグリーンの点灯、残り20秒を切るとLEDランプの色が赤に変わる。そして、作動後の利用不可能な時間帯はランプがゆっくりと点滅することで状況を知らせる仕組みとなっている。 このようにハード面とソフト面、その両方でトラック上でのバトルを促すことで日本を代表するドライバーズレースとなっているスーパーフォーミュラだが、今年はより選手たちのドライビングスキルが発揮されるレースとなるよう、さらなる施策が打ち出された。 昨年12月1日、2024年シーズンに向け、共通ダンパーの採用が正式発表された。各チームはこれまで、さまざまなメーカーのダンパーを自由に選び、独自に培ってきた知見を生かしたチューンを行うなど足回りの味付けを施してきた。 しかし今季はオーリンズ製の共通ダンパー(コーナーダンパーおよびサードエレメント)に統一されることが決定した。シリーズを運営するJRP日本レースプロモーションはこれについて、「ドライバーのスキルが発揮されるレース」を目指したものであり、「部品代の高騰を抑制し、チームの参戦コストを低減」する目的があるとしている。 自動車レースにおいて重要な要素となる足回りの変更。これまでチーム間でバラバラだったパーツを同一メーカー製の同じ規格のパーツに揃えることは、チーム間の勢力図に変化をもたらす可能性があり、注目ポイントのひとつと言えるだろう。 一方、勢力図に関しては“ドライバーズレース”と称されるとおり、各チームが起用する選手によっても大きく左右される。というわけで、次の項では2024年シーズンに参戦するドライバーラインアップを確認していく。 ■SF初日本人女性ドライバー誕生へ。FIA F2王者来襲 2024年シーズンのスーパーフォーミュラに参戦するドライバーは21名で、21台のエントリーがあった昨シーズンから変わっていない。エンジンメーカー別に内訳を見てみるとトヨタ/TRDエンジン勢は6チームから11台、ホンダ/無限エンジン勢は6チーム/10台が出場予定だ。 前者では6チーム中、KONDO RACINGとdocomo business ROOKIEの2チームが体制を維持した。残る4チームは1名、ないし2名のドライバー変更が見られる。 まず、2023年のチャンピオン獲得後FIA F2とELMSヨーロピアン・ル・マン・シリーズへのフル参戦およびWEC世界耐久選手権でのリザーブドライバー就任に伴い、今季は海外へ拠点を移すこととなった宮田莉朋が離れたVANTELIN TEAM TOM’Sには、2019年から5シーズンにわたりCERUMO・INGINGから参戦した坪井翔が加入し、36号車のステアリングを握ることに。37号車は、2023年第6戦から36号車のステアリングを握った笹原右京がレギュラーシートを掴んだ。 一方、坪井が離れたCERUMO・INGINGは新たにVERTEX PARTNERS CERUMO・INGINGとしてエントリーすることとなり、2020年のSFデビュー以降、昨年までホンダ系チームからシリーズ参戦していた大湯都史樹が移籍加入している。 ITOCHU ENEX TEAM IMPULは2台ともにドライバーが変更となった。19号車には2023年IA F2チャンピオンで、F1チームのキック・ザウバーでリザーブドライバーを務めるテオ・プルシェールが加入。姉妹車の20号車のシートには、昨季Kids com Team KCMGの18号車をドライブしていた国本雄資が座る。2016年王者の国本が離れたKCMGの18号車は今季は8号車となり、ここに昨シーズンまで6年にわたってホンダを代表するドライバーとしてSFに参戦した福住仁嶺が加入。7号車を駆る小林可夢偉の新たなチームメイトとなっている。 ホンダ/無限エンジンを使用するチームも、ライバル陣営と同様に6チーム中4チームにドライバーラインアップの変更があった。 チームタイトル2連覇を達成したTEAM MUGENは、複数年契約を結んだ野尻智紀のチームメイトに、2023年FIA F2ランキング4位と岩佐歩夢を起用。昨季は2台体制でエントリーしていたB-Max Racing Teamは、San-Ei Gen with B-Maxとエントリー名を改めたうえで1台体制となり、2023年の全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権チャンピオンの木村偉織を抜擢している。 引き続き1台体制での参戦となるThreeBond Racingは、昨年からチームのリザーブドライバーを務めていた三宅淳詞がレギュラードライバーに。そしてTGM Grand Prixからは現役女子高校生ドライバー(4月から大学生)として大きな注目を集めているJuju(野田樹潤)のシリーズ参戦が決定。国内トップフォーミュラにおいて初めての日本人女性ドライバーが、史上最年少で誕生することになった。チームメイトはB-Maxからの移籍となる経験豊富な松下信治だ。 一方でDOCOMO TEAM DANDELION RACINGと、NAKAJIMA RACINGは昨季と同じ布陣を継続するが、後者は今季チーム名を変更しPONOS NAKAJIMA RACINGとしてエントリーしている。 ●2024年スーパーフォーミュラ エントリーリスト(3月5日時点) No./Driver/Team/Engine 3/山下健太/KONDO RACING/TOYOTA/TRD 01F 4/小高一斗/KONDO RACING/TOYOTA/TRD 01F 5/牧野任祐/DOCOMO TEAM DANDELION RACING/HONDA/M-TEC HR-417E 6/太田格之進/DOCOMO TEAM DANDELION RACING/HONDA/M-TEC HR-417E 7/小林可夢偉/Kids com Team KCMG/TOYOTA/TRD 01F 8/福住仁嶺/Kids com Team KCMG/TOYOTA/TRD 01F 12/三宅淳詞/ThreeBond Racing/HONDA/M-TEC HR-417E 14/大嶋和也/docomo business ROOKIE/TOYOTA/TRD 01F 15/岩佐歩夢/TEAM MUGEN/HONDA/M-TEC HR-417E 16/野尻智紀/TEAM MUGEN/HONDA/M-TEC HR-417E 19/テオ・プルシェール/ITOCHU ENEX TEAM IMPUL/TOYOTA/TRD 01F 20/国本雄資/ITOCHU ENEX TEAM IMPUL/TOYOTA/TRD 01F 36/坪井翔/VANTELIN TEAM TOM’S/TOYOTA/TRD 01F 37/笹原右京/VANTELIN TEAM TOM’S/TOYOTA/TRD 01F 38/阪口晴南/VERTEX PARTNERS CERUMO・INGING/TOYOTA/TRD 01F 39/大湯都史樹/VERTEX PARTNERS CERUMO・INGING/TOYOTA/TRD 01F 50/木村偉織/San-Ei Gen with B-Max/HONDA/M-TEC HR-417E 53/Juju/TGM Grand Prix/HONDA/M-TEC HR-417E 55/松下信治/TGM Grand Prix/HONDA/M-TEC HR-417E 64/山本尚貴/PONOS NAKAJIMA RACING/HONDA/M-TEC HR-417E 65/佐藤蓮/PONOS NAKAJIMA RACING/HONDA/M-TEC HR-417E ■2024年シーズンも全9戦。終盤2大会はダブルヘッダーに 2024年シーズンは、2度の1大会2レース制のラウンドを含む、7大会9レースが開催される。この点や開催サーキットは昨年と変わりはないが、開幕が例年よりも早い3月であることや、2レース制となるラウンドが終盤に固められたことなど、複数の変更が確認できる。 具体的には、開幕ラウンドが富士スピードウェイから鈴鹿サーキットに取って代わり、今週末3月9~10日に実施されることとなった。4月にレースがない一方、5月以降は8月まで毎月1イベントが行われ、5月はオートポリス(大分)、6月はSUGO(宮城)、7月は富士(静岡)、そして8月はもてぎ(栃木)での開催が予定されている。これらはすべて1レース制だ。 9月はふたたび空白の1カ月となり終盤戦に向けて力を蓄える期間に。その終盤2戦はいずれも週末のダブルヘッダーが予定され、10月の富士ラウンドで第6戦と第7戦が、11月に鈴鹿(三重)で行われる“JAFグランプリ”では第8戦と第9戦が実施される。 レースウイークのスケジュールは、1レース制の週末と2レース制の週末とでフォーマットが異なる。1レース制の大会では、90分のフリー走行1と予選を土曜日に行い、日曜は30分間のフリー走行2と決勝が行われる。 これに対して2レース制の大会では、金曜日に90分間の専有走行を行った後、土曜と日曜は午前中に予選、午後に決勝という流れを繰り返すかたちとなる。 各レースにおける点数配分は、予選がポールポジションから3番手まで順に3-2-1ポイント。決勝では1位から10位まで順に20-15-11-8-6-5-4-3-2-1ポイントとなっている。1大会2レース制で行われる場合、それぞれのレースにおいて同じ分のポイントが発生するという点は昨シーズンと変わらない。そのため、今季も2レース制の大会において好調を維持しつつ、週末の2レースとも良い結果を残せるかという点が、チャンピオンシップを争ううえでのカギとなりそうだ。 ●全日本スーパーフォーミュラ選手権 2024年シーズンカレンダー(12月25日時点) Round/Date/Circuit Rd.1/3月9~10日/鈴鹿サーキット(2&4レース) Rd.2/5月18~19日/オートポリス Rd.3/6月22~23日/スポーツランドSUGO Rd.4/7月20~21日/富士スピードウェイ Rd.5/8月24~25日/モビリティリゾートもてぎ Rd.6-7/10月12~13日/富士スピードウェイ Rd.8-9/11月9~10日/鈴鹿サーキット(JAFグランプリ) ■公式アプリ『SFgo』はチーム無線も聞ける。今年もABEMAで全戦無料ライブ配信 ここまでは、スーパーフォーミュラを楽しむための基本情報などをお伝えしてきたが、最後にレースのライブ中継や関連番組の放送情報を紹介しよう。 予選や決勝レースの模様は、テレビではスポーツ専門チャンネルのJ SPORTSで全戦生中継が行われる。また、インターネットを介しパソコンやスマートフォン、タブレットなどで視聴できるJ SPORTSオンデマンドでも同じ内容がライブ配信されており、見逃し配信にも対応。さらに、オンデマンドではフリー走行の放送も予定されている。 2023年にリリースされたスーパーフォーミュラの公式アプリ『SFgo(エスエフ・ゴー)』では、フリー走行、予選、決勝の中継映像に加え、オンボード映像とテレメトリーデータが見ることができるほか、チームとドライバーのやりとりに使用される無線を聞くことが可能に。さらにレース中に誰が、どのタイミングでOTS(オーバーテイクシステム)を使用したかがリアルタイムで分かるようになっており、各車のOTS残量も比較して見ることができるなど、よりマニアックな目線でレースを楽しむことも可能になっている。 上記の視聴・配信サービスはいずれも有料コンテンツとなっているが、インターネット環境があればABEMAでの無料ライブ配信でレースを楽しむことができる(決勝のみ)。また、同サービスでは昨年からABEMAモータースポーツアンバサ―を務めている日向坂46の富田鈴花さんがMCを務める情報番組『サーキットで会いましょう Season2』の放送も決定。2年目となる今季も、参戦ドライバーをゲストに招きレースや選手の魅力を紹介していくほか、グルメ情報や次戦の見どころなど、思わずサーキットに行きたくなる内容の番組になるという。 ●番組・出演者情報 /J SPORTS/同オンデマンド、SFgo中継/場内放送/ABEMA 実況/笹川裕昭/ピエール北川/MCコウゼン 解説/土屋武士、脇阪寿一/和泉風花(声優)/中山雄一 ピットリポーター/英美里/――/―― 現地リポート/――/――/富田鈴花(日向坂46) [オートスポーツweb 2024年03月07日]