中山美穂さんは常に“テレビの中”にいた 記憶に残り続ける『Love Letter』と『眠れる森』
女優で歌手の中山美穂さんが12月6日に亡くなった。54歳だった。当日にはクリスマスコンサートの大阪公演が予定されており、2025年4月からコンサートツアーを行うことも発表されていた。映画やドラマに多数出演し、歌手としても精力的に活動する中での突然の訃報に、多くの人々が驚きと悲しみを隠せずにいる。 【写真】中山美穂さんの代表作のひとつ『眠れる森』 ドラマ評論家の成馬零一氏は、中山さんについて「80年代後半から90年代前半における時代の象徴のような人だった」と振り返った。そして多くの人にとって中山さんは「ずっと憧れの“芸能人”」だったのではないかと語る。 「中山美穂さんは1985年にテレビドラマデビューを果たし、80年代後半には主演として活躍されていました。その後に繰り返し再放送もされていたので、『ママはアイドル』や『毎度おさわがせします』といったコメディテイストのTBSドラマでの活躍は強く記憶に残っています。物心がついた時に初めて意識した芸能人の方でしたが、“少し年上の憧れのお姉さん”という距離感でずっと憧れていました。当時はまだ10代でしたが、今見ても、とても大人っぽいですよね。80年代の出演作は“アイドル”としてのスター性ありきの抜擢だったと思いますが、あの時代だからこそ生まれた明るく楽しい魅力があったと思います。歌手としても活躍されていて、『ザ・ベストテン』(TBS系)や『夜のヒットスタジオ』(フジテレビ系)にも出演、一方、バラエティ番組やCMでも活躍されていて、常に“テレビの中にいる”方でした。今はだいぶ仕事が専門化されていますが、当時は10代のアイドルがあらゆるジャンルの最前線で活躍していて、その筆頭が中山さんでした。その意味で、80年代後半のアイドルカルチャーを象徴する方だったと思います」 成馬氏は中山さんの出演作で特に印象的だったものとして、映画『Love Letter』と『眠れる森』(フジテレビ系)を挙げた。『Love Letter』は恋人の死から立ち直れずにいるヒロイン・博子(中山美穂)が、彼がかつて住んでいたであろう住所宛てに手紙をしたためたところから物語が展開。『眠れる森』は結婚を3カ月後に控えた実耶子(中山美穂)が、荷物を整理している時に「15年後の今日、僕たちの森で、眠れる森であいましょう」と書かれたラブレターを見つけ、故郷に帰省するところから物語が始まる。 「どこか浮世離れした感覚といいますか、中山さんにしか表現できない“無垢”さがあるんですよね。特に『眠れる森』は90年代前半への批評性を帯びた作品でもあり、この時代の象徴的な存在である中山さんが終盤に向かって追い詰められていく姿に異常な説得力がありました。80年代の出演作は今の時代の基準で観ると拙い部分もあるのですが、あの時代ならではの勢いと迫力がある。その意味で時代の空気が生み出した作品だった。それに対して、『Love Letter』と『眠れる森』は、時代を超えて語り継がれる普遍的な魅力があり、演技の良し悪しを超えた、中山さんだからこそ成立した作品だったと思います」 最後に成馬氏は「まだまだこれからだったのに」と早すぎる死を惜しんだ。 「今って、ファンとアイドルが一緒に年をとっていく時代だと思うんです。例えば小泉今日子さんや薬師丸ひろ子さんは、宮藤官九郎さんのドラマに、アイドル時代のイメージをうまく反映した大人の女性役として出演することで新境地を切り開いた。中山美穂さんも、アイドル時代から応援しているファンの方がたくさんいて、今は作り手の側に回った方も大勢いたので、80~90年代のイメージを反映した役に起用したいと考えている方も多かったと思います。そんな、今の中山さんだからこそ演じることができた役が、ドラマや映画で観れなかったことが、ただただ悲しいです」 美しく、多くの人が憧れた“時代の象徴”である中山さんの早すぎる死が悔やまれてならない。
久保田ひかる