なぜ巨人は“完全男”佐々木朗希の攻略に成功したのか…バットを短く持った徹底した逆方向狙いと機動力を使った揺さぶり
最終的には6個の三振を奪われ、両リーグを通じて史上最速タイとなるシーズン10試合目での100奪三振到達を許した。1990年の野茂英雄(近鉄)ら3人に並ぶ快挙と差し違えるかのように、球数が89に達した5回限りでKOした。 その5回は足を使って佐々木に揺さぶりをかけている。 中前打で出場した先頭の3番・吉川尚輝(27)が、岡本の2球目に二盗を成功させた。このとき、佐々木は岡本に初球を投じる前、そして投じた後にけん制球を投げる素振りを見せた。実は4回に中山が出塁し、打席に小林を迎えたときも、佐々木は初球のボールをはさんでけん制球を投げる素振りを2度見せている。 これまでの登板から、佐々木がクイックモーションに苦手意識を持っているのを巨人も把握していた。けん制球も実際には投げないケースが多く、続けてプレートを外すのも稀だ。つまり、一度けん制球を投げる素振りを見せれば次は打者へ投げる。 4回は中山を走らせた上で小林に打たせる作戦がとられ、続く岡本が内野ゴロに倒れた5回にはポランコの初球で吉川が三盗を成功させている。バッテリーは完全に無警戒で、吉川はポランコのレフトフェンス直撃の二塁打で楽々と生還した。 得点には結びつかなかったものの、増田陸がワンバウンドするフォークに空振り三振。振り逃げを阻止するためにキャッチャー松川虎生(18)が一塁へボールを送った直後にポランコは三塁へ進塁。これでもかと佐々木を攻め立てている。 「若い選手が食らいついていった、というところが何かこう、(打線に)火をつけたような。非常に価値のあるタイムリーだったと思います」 先制タイムリー二塁打を放ち、8回にはバットを普通に握り変えて中前打をマークし、貴重な追加点をもたらした殊勲の増田陸を原監督は笑顔で称えた。 指揮官はさらに佐々木の降板後にも3つの盗塁を加え、巨人で49年ぶりに達成された1試合6盗塁を昨シーズン限りで引退し、今シーズンから一塁ベースコーチを務める亀井善行・一軍外野守備兼走塁コーチ(39)の存在に結びつけながらこう続けた。 「亀井コーチの努力の賜物ですね。いい(盗塁の)指示だったと思います」 ちなみに前回に6盗塁を成功させた選手の一人には、この日の試合開始前に佐々木と対面している長嶋茂雄巨人軍終身名誉監督(86)が名を連ねている。報道によれば、長嶋氏から「見てきた投手のなかでナンバーワンだ」と称賛された佐々木は「結果の通り、いい打者が多いなかで失投が多かった」と反省したという。 巨人は同じ東京ドームで3月18日に行われたロッテとのオープン戦でも、佐々木を5回途中でKOしている。5回二死満塁で内角低目へ投じられた159kmの直球を右中間スタンドへ弾き返し、マウンドから引きずり降ろしたのは岡本だった。 リベンジを期した佐々木を自己ワーストの5失点でKOし、今シーズン初黒星を添えて返り討ちにした一戦。再び豪快な一発を放った岡本が注目を集めるなかで、本当の意味で「令和の怪物」を陥落させたのは、佐々木を本物と認めた上で一丸となって対抗策を編み出し、執念で実践した巨人の選手および首脳陣の意地と誇りだった。