在職老齢年金の改正でシニアの得する働き方に変化 働きながら「繰り下げ受給」の増額率アップ、80歳までで100万円受給増の試算も
2025年の年金改正に向けて、見直しの全容が見え始めている。60歳以上で働きながら年金を受け取る人にとって、注目すべきは「在職老齢年金」制度の見直しだ。 【図解】受給増になるケースも 在職老齢年金のルール改正で「繰り下げ受給」もフル活用
現行の制度では、「給料+年金(厚生年金の報酬比例部分)」の金額が50万円を超えると、超過分の半分の年金が減額(支給停止)される。いわば「50万円の壁」だ。しかし今回の改正では、現行の50万円から62万円または71万円に引き上げる案、さらに完全廃止してどれだけ稼いでも年金カットされない案の3つが議論されている。 「50万円の壁」が撤廃されることで、年金で得するチャンスが生まれる。年金を満額受給するための“働き控え”をしなくてもよくなり、さらに給料が増えることで年金額が毎年少しずつ増えるようになるのだ。 そして、在職老齢年金の減額ルール改正のメリットはまだある。人によっては、年金受給開始を66歳以降に遅らせる「繰り下げ受給」の恩恵が大きくなるのだ。 年金は受給開始を1か月遅らせるごとに受給額が0.7%ずつ割増しされていく。65歳から70歳受給開始へと5年繰り下げると、年金額は42%増になる。 ところが、65歳の年金受給開始時点で給料と年金の合計が「50万円の壁」を超えそうな人が、「どうせ年金減額されるなら、繰り下げしてリタイア後に割増し年金をもらうようにしよう」と試みても、割増しの恩恵は限定的になってしまう。 「50万円の壁」を超えて支給停止されるはずだった分の年金は、たとえ繰り下げで受給開始を遅らせても、割増しされないルールがあるからだ。
それなりの給料水準がある人は繰り下げを選びやすくなる
年金が月10万円、月給44万円なら、「50万円の壁」を超えた月4万円の半分にあたる月2万円の年金が支給停止され、年金額は月8万円に減らされる。だからといって5年繰り下げ(70歳受給開始)を選んでも、支給停止相当額の月2万円分は割増しの対象外になる。そのため、70歳から受け取れる年金額は月13.36万円までしか増えない。 これに対して、年金減額の壁が62万円に引き上げられると、同じ年金月10万円、月給44万円でも、支給停止はゼロ。65歳からは満額の10万円受給できるし、5年繰り下げを選んだ場合は42%の割増しがフルに反映されて年金額は月14.2万円まで増えるのだ。 同じ条件で5年繰り下げた両ケースを比べると、年金減額の壁が50万円から62万円に引き上げられることによって、70歳から受け取る年金額は約10万円(年間)増え、80歳までの受給総額は約100万円も多くなる。 「年金博士」こと社会保険労務士の北村庄吾氏が解説する。 「在職老齢年金が支給停止されず、繰り下げしても割増しがフルに受けられるようになれば、それなりの給料水準がある人は繰り下げを選びやすくなる。働いているうちは年金なしでも生活できる人であれば、完全リタイア後まで受給開始を遅らせ、その分、多くの年金を受け取るという選択肢が有力になってくるわけです」 ルール変更によって、年金を増やす選択肢が広がる可能性があるのだ。 ※週刊ポスト2024年12月20日号