久保建英がイニエスタの前で決めたJ1初ゴールの裏にあったもう一つの戦い
FC東京時代から数えて7試合目の出場にして、念願の初先発を果たしたJ1の舞台で初ゴールを決める。それも、FCバルセロナとの縁でキックオフ前から注目されていた、ヴィッセル神戸のMFアンドレス・イニエスタ(34)の目の前で鮮やかな一撃を見舞った。 何かを“もっている”と唸らざるをえない横浜F・マリノスの17歳、FW久保建英のサッカー人生に記念すべきマイルストーンが刻まれたのは、両チームともに無得点で迎えた後半11分。プロローグとなったのは、ノエビアスタジアム神戸のピッチ全体を俯瞰した久保の特異な空間把握能力だった。 センターサークル内で縦パスを受けた久保が前を向いた瞬間、右タッチライン際でフリーだったMF松原健(25)からパスを要求する声がかかる。ボールを前へ運びながら、すかさず利き足の左足から正確なパスを送った久保は、そのまま相手ペナルティーエリア内を目指して加速していく。 前方ではFW伊藤翔(30)がファーサイドへ走り、ヴィッセルのセンターバック大崎玲央(27)の注意を引きつけている。伊藤の姿を把握した久保は「自分もクロスに入っていこうかと思った」と、この時点ではニアサイドへ飛び込むプレーを選択しかけていた。 しかし、ヴィッセルの最終ラインの帰陣が予想以上に速い。普通にクロスを入れても、はね返される可能性が高いと感じたのか。意図的にスピードを落とした久保は、松原が切り返して中に入ってくる姿をとらえた。松原もまた何か工夫が必要だと感じていた。 ゴール前へ戻るヴィッセルの選手たちと、ペナルティーエリアに入ったところで急停止した久保。おのずと目の前には、久保だけが自由自在に使えるスペースが広がった。 「ちょっと下がってシュートを打とうかと思ったら、松原選手がいいところにいいタイミングでボールを出してくれて。緊張感もありましたけど、落ち着いて決めるだけでした」 トラップはやや浮いたものの、久保から目を離してしまったもう一人のセンターバック、カタール人のアフメド・ヤセル(24)は対応できない。大崎が慌てて間合いを詰めてくるその眼前で、久保は動じることなく左足を一閃。ハーフボレーから強烈な一撃を放った。 韓国代表としてワールドカップ・ロシア大会に出場した守護神キム・スンギュ(27)が必死にダイブし、懸命に伸ばした左手もまったく届かない。右ポストをかすめてゴールネットを揺らした初ゴールに、久保は「もちろんコースは狙いました」と胸を張りながら、偽らざる本音も漏らしている。 「こんな早いタイミングでゴールできて。移籍してからいいこと続きだし、これがビギナーズラックにならないように頑張らないといけない」