「尹錫悦後」を計算する中国【特派員コラム】
中国でも韓国の政変は大きなニュースだ。「尹錫悦(ユン・ソクヨル)非常戒厳宣言」「国会、大統領弾劾訴追」「キム・ゴンヒ女史特検」「首相弾劾訴追」「大統領逮捕状発行」…。ここ1カ月間、中国のポータルサイトやSNSなどでは、韓国政治関連のニュースが検索順位の上位に何度も出てきた。尹錫悦大統領夫妻の愛や夫人のキム・ゴンヒ女史のミステリアスな過去を扱う刺激的な記事も少なくなく、最近では「不安定な政治状況に疲れた韓国の若者たちが、上海に旅行に来ている」という記事まで登場した。韓国人としては怒り心頭の社会状況だが、対岸にいる中国人の立場としては、興味深い政治ドラマをみている気分だろう。 戒厳事態からほぼひと月となり、内乱罪の被疑者である尹大統領に対する弾劾手続きが具体化してきたことで、中国内の反応も真剣になっている。中国外交部と官営メディアは「韓国の内政」として今も一歩引いた態度を示しているが、中国の外交専門家やSNSで活動する「韓国オタク」「外交オタク」たちは、尹錫悦政権が推進した「親米反中」の基調の変化の可能性に注目している。尹大統領と最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン代表の外交政策を比較し、韓国の外交方針が変わる可能性が高いとする分析を出している。米国は親米傾向がはるかに強い尹大統領をさらに好む可能性があり、次期トランプ政権が今回の事態にどのような態度を示すかが重要だとする分析も出ている。 私的な場で会ったある外交専門家は「尹大統領の事態による韓国の混乱は不幸なことだが、中韓関係を考えれば幸いだという気もする」と述べた。これまで親米反中の基調でひた走ってきた尹錫悦政権が、2年も操り上げて退陣する機会が生じたためだ。今後いつどのような政権になるのかは不明だが、少なくとも中国にとっては、話が通じない相手にこれ以上会わないですむ可能性が高いということだ。 尹大統領側が政治的利益のために北朝鮮を挑発したという大問題については、強い批判の声が出ている。尹大統領が朝鮮半島はもちろん、東アジア、ひいては世界全体を危険にさらす可能性のある危険な人物だとする分析とともに、米国のタカ派に似た行動をするという指摘などが出ている。 中国は、韓国の事態の推移を見守り、両国関係や世界情勢などに及ぼす影響を静かに分析しているが、韓国の対中外交は、駐中大使も交替できないほど「止まった」状況にある。尹錫悦政権は先月初め、尹大統領の沖岩高校時代の同窓生であり、任期中にパワハラ事件で問題を起こしたチョン・ジェホ駐中大使を、キム・デギ元大統領秘書室長に交替しようとしたが失敗した。混乱する政府の状況のもとではチョン大使の帰国命令を出せず、中国も後ろ盾を失ったキム元室長の赴任を歓迎していない。心が離れたチョン大使は「単独脱出」を試みているが、なかなかうまくいっていないようだ。中途半端の状況がかなり長く続く可能性があるという見方も出ている。 こうしたなか、尹大統領は先月中旬に自身の戒厳行為を正当化し、中国人スパイ疑惑事件や中国製の太陽光発電設備などを否定的に取り上げ、中国を刺激した。韓国での事態に沈黙していた中国はただちに「大きな驚きと不満を感じる」と反発した。 損害はすべて国民に向かい、特に中国と関係する仕事をしている人たちの被害が大きい。ある在中事業家は「韓国旅行を延期したりやめたりする中国人が少なくなく、為替レートの被害もある」とし、「韓国政府からの助けはそもそも期待していないが、せめて被害を加えてはならないのではないか」と述べた。 チェ・ヒョンジュン|北京特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )