パリ五輪出場のフェンシング世界王者江村美咲さん 二つの日本勢「初メダル」に挑む
【江村美咲さんのプロフィール】
1998 大分市で生まれる 2007 フェンシングを始める 2011 種目をサーブルに転向 2018 全日本選手権で初優勝 2021 「プロ宣言」。東京五輪は個人が3回戦敗退。団体は5位 2022 世界選手権(エジプト・カイロ)で優勝 2023 世界選手権(イタリア・ミラノ)で2連覇
サーブルに転向のきっかけは……
いわゆる「サラブレッド」だ。父の宏二さん(63)は1988年ソウル五輪のフルーレ代表で、元日本代表監督。母孝枝さん(57)はエペの世界選手権代表だった。長女は、なぜかサーブルという両親とは違った道を歩むことになる。 小学3年のとき、父が開いていたフェンシング教室に遊びに行く感覚で競技を始めた。父と同じフルーレから入った。「五輪をめざそうとか、向上心はなかった」。大会に出ても、輝かしい成績とはあまり縁がなかった。サーブルへの転向のきっかけは「賞品」だ。 小学校を卒業し、中学校に入学する前、ナショナルトレーニングセンターで、ジュニアのサーブルの大会が開かれることになった。優勝者の賞品に、アニメ「ウサビッチ」のジグソーパズルが用意されているのを見つけた。 パズルが欲しくて、父に出場したいと懇願した。父は現役時代、器用な選手で、フルーレだけでなくサーブルでも全日本チャンピオンになった実績がある。サーブルは瞬時に勝負が決まるダイナミックさが魅力だ。 父は「相手の剣をたたいてから、前に出なさい」とシンプルな戦略を娘に授けた。結果は優勝。それまで経験してこなかった頂点に立つ喜びを体感した。ちゅうちょなく、サーブル転向を決めた。 ところが、中学に入り、挫折を味わうことになる。福岡県のジュニア世代のタレント発掘事業で見いだされ、日本オリンピック委員会(JOC)のエリートアカデミー生として上京してきた同学年2人の壁だった。「2人はフェンシングが未経験だったので、最初は勝てたんですけど、福岡県でトップ級の運動神経なので、あっという間に抜かれました」 同期のライバルに触発され、向上心に火がついた。中学3年のとき、英国で開かれた国際大会で優勝して、世界の舞台で戦う意識も芽生え始めた。