リサリサが〈スタンド〉の起源をめぐる【ジョジョ】外伝! 直木賞作家・真藤順丈は第2部と第3部の狭間に何を見た?〈インタビュー〉
ジョジョのスピンオフ小説『ジョジョの奇妙な冒険 無限の王』が発売された。手がけたのは、ジョジョが自身の創作 の基幹と言う直木賞作家・真藤順丈さんだ。 本作の舞台は、第2部と第3部の狭間の時代。ジョセフ・ジョースターの〈波紋〉の師・リサリサが、中南米各地からジャングルの最深部へと分け入り〈スタンド〉の起源を探る。マジックリアリズム的世界観とジョジョの融合、そして〈波紋〉から〈スタンド〉へと至る神話とは。真藤さんが、外伝執筆の“熱狂”を語る。
ジョジョは僕の“コモンセンス”です
――『ジョジョの奇妙な冒険 無限の王』、大変面白く拝読しました! こちらは「JOJO magazine」に連載されたものですね? 真藤順丈さん(以下、真藤):そうです。以前、『GANTZ』のオリジナルノベライズ『GANTZ/EXA』(平山夢明:原案・構成/集英社)を執筆させていただいて、その後、他のマンガのノベライズもいくつか編集者さんが提案してくださって。何が書きたいですかと問われるたびに僕はいつも「ジョジョ」と答えていたんです。それでちょうどムック連載のお話をいただいて、迷うことなくやらせてもらいました。 ――ジョジョはいつからお好きだったんですか? 真藤:もう30年以上前か!すごいですね、中学生ぐらいのころから全巻揃えていました。ジョジョは僕ら世代の書き手にとってコモンセンスのようなものだと思います。 ――第何部が一番お好きですか? お気に入りのキャラクターはいますか? 真藤:挙げだしたらきりがありませんが……。東方仗助と虹村億泰、第5部のブチャラティのギャングチーム、各部のラスボスもみんないいし……。ジョジョのキャラクターはそ れぞれに熱量と信条があって、かならずどこかエッジがきいていて、あれだけの大系になるとキャラクター類型として参照できる名鑑のような域に達していますよね。
リサリサを主人公にすることで、ジョジョの歴史の過去と現在をつなぐ
――『無限の王』は第2部と第3部の狭間を描いています。 真藤:自前の作品では、近現代の歴史小説をけっこう書いてきました。ジョジョでもこのアプローチに落としこめないかと。たとえスピンオフでも、個人的にはあくまでも本編の一部、正史の隙間の〈語られざる物語〉にフォーカスを当てる形式を採りたいと思ったんです。 ――主人公は、ジョセフ・ジョースターの〈波紋の師〉だったリサリサです。彼女の“その後”の物語、しかもスピードワゴン財団の顧問として活躍する冒険譚が読めるというのは、非常に嬉しかったです。 真藤:リサリサは、初めは映画「007」シリーズのM(MI6の部長)のような立ち位置で設定して、ジュディ・デンチが演じたバージョンの。彼女を据えることで本編の2部と3部の橋渡しとなる話が書けるのではないかと。後列の指揮官というポジションだったんだけど、はからずも物語の要請から、最前線にがんがん出ていくことになりました。 ――なぜ女性を書きたいと? 真藤:第二次世界大戦に従軍したソ連の女性兵士を題材とした『戦争は女の顔をしていない』が好例ですが、近年では歴史や戦史を書くにあたり、女性視点のものが傍流から主流になってきている。昭和的なマチズモやハードボイルドから離れて、あらため て史実の〈語り直し〉が可能になってくる。語られざる物語に着手するにあたって、現在においてはそちらのほうがよりアクチュアルな主題をあつかえると感じます。