隣人が同性カップルだと、なぜ嫌なの? 「生きづらさ」強いる元首相秘書官の差別発言、G7サミットを機に本当に理解は進むのか
元首相秘書官の荒井氏の発言は、同性カップルが感じる生きづらさや不安をさらに大きくするものだった。前出の男性は荒井氏が語った「秘書官室は全員反対で、私の身の回りも反対だ」との言葉にも強い不信感を抱いた。「もしかしたら(荒井氏の)周りにもカミングアウトできていない当事者や、本当は同性婚に賛成の人がいるかもしれない。だけど『同性婚反対』という同調圧力がはたらく中では、本音を言えるわけがない」と推し量る。 麻智さんとテレサさんにも荒井氏の発言について尋ねたが、2人そろって「ありえない発言だ」とあきれ顔だった。麻智さんは「周囲で荒井氏の考えを批判できない雰囲気があり、いつの間にか『裸の王様』になっていたのだろう」とばっさり。さらに「首相の一番近くにいる人があんな発言をするなんて。個人の嫌悪感で私たちの権利が拒まれているのではないか」と危機感を抱く。テレサさんは「私たちは幸せに暮らしたいだけ。(荒井氏のような)差別的な発言をする人こそ、近くに住んでいたら嫌だと思う」と悲しみをにじませる。
▽近い存在ほど抵抗感 周囲の目を気にしながら暮らす同性カップルがいる一方で、偏見や差別意識がにじむ言葉を公然と発する人もいる。なぜ、こんな状況が生まれてしまうのだろうか。 「背景には、自分にとって『異質な存在』である人たちには、自分のコミュニティー、つまり同質的な空間に入ってきてほしくないという意識があるのではないか」。こう語るのは性的マイノリティーやジェンダーを研究する広島修道大の河口和也教授だ。 河口教授のチームが2019年に実施した性的マイノリティーに対する社会意識の調査によると、「近所の人が同性愛者だったらどうか」との設問に対し、「嫌だ」「どちらかといえば嫌だ」といった否定的な回答をした人は28%だった。一方で、「近所の人」を「きょうだい」や「自分の子ども」に置き換えて聞いたところ、否定的な回答の割合は、それぞれ53%、61%に上昇した。 河口教授は「調査結果と荒井氏の発言から、近所の人を子どもやきょうだいのように近い存在として見なす人ほど、抵抗を感じる傾向にあるといえるのではないか」と分析する。また、都市部と比べて地方では、性的少数者が周囲の視線を感じることも多く、行動が制限されてしまう側面があるという。こうした見方は、人間関係の密な地方での暮らしに生きづらさを訴える当事者が多いことの説明にもなりそうだ。