衆院選は股裂き状態「連合」と政治の関係は 坂東太郎のよく分かる時事用語
民主党を支援して09年に政権交代
以後は連合の民主党支持が続きます。党にとって、連合は大きな票田というメリットもさることながら、選挙当日にポスターを貼り終えてしまうなど運動量が魅力的です。連合としても、産別の組織内議員を国会へ送り出して労組の要求を国政へ反映できるという利得がありました。ただ民主党には連合の左派的体質(後述)を嫌気して時に関係がギクシャクした時期もみられます。 それでも民主党が順調に支持を伸ばし、2009(平成21)年総選挙で大勝して政権を奪取するまで、この問題は潜んでいました。政権運営が稚拙であったのを有権者に嫌気されて12年総選挙で大敗してから、内在していた不和も表面化します。 連合を形作る旧総評系には社会主義的な主義主張を容認・推進する勢力が多分に含まれます。さらに日本共産党との共闘を辞さない容共と、「それだけは勘弁」と主張する者に分かれるのです。一方で旧同盟系は最初から反共。民主党内の保守勢力は「反共」で、「容共」なんてとんでもないというのが本音ですが、野党転落後の反転攻勢に1つの小選挙区に2万人ほどいるとされる共産票を加えないと民主・共産共倒れで自民を利するだけという計算から、候補者の野党一本化を進めようという考え方も広がっていきます。 16年3月に民進党と名を改めた際に合流した維新の党も保守で、「一本化しないと勝てない」という現実主義と共産党とは組めないという保守の論理が党内できしみを強めていきました。
今回は異例? 支持政党決めず
そこに今回の「希望の党」騒ぎです。かつて民進の前身である民主党結成の際になされた「排除の論理」を、今度は小池代表から突きつけられて前原代表が掲げた「党丸ごと」の移籍はかなわず、排除されそうな議員を中心に「立憲民主党」が創設されたのです。因果はめぐる糸車。 連合も混乱しています。衆議院の「組織内候補」が「希望」「立憲民主」「無所属」に三分裂し1政党だけを支持できなくなりました。組織内候補は産別がそれぞれ支えています。結局は各産別候補の移籍先をそれぞれが応援して、連合としての意思決定はできそうにありません。 連合不要論もささやかれています。創設当初より100万人以上も組合員数は減っているし、構成するのは「公務員と大企業正社員」が中心で、言ってみれば一種の特権階級。約700万人は多いようで就業者数の1割強に過ぎません。「公務員と大企業正社員」の雇用と賃金を守るとは雇用労働者の約4割を占める非正規雇用者にとって縁がないばかりか敵とすらみなせます。 歴代会長は皆、名だたる大企業の出身で、幹部らの多くは若い時分から「組合専従」。組合活動に専念していて誤解を恐れずにいえば「働いていない」のです。賃金から引かれる決して安くない組合費で生活していて、では命がけで雇用維持や賃金上昇の成果を出しているかというと、近年ではリストラの嵐や実質賃金の低下に見舞われるありさま。しかも組織内議員というすごろくの上がりみたいな地位まで用意されています。「労働貴族」と揶揄されるゆえんで、保守は言うに及ばず、リベラルや左派系の有識者からも批判されている始末です。傘下産別の全国電力関連産業労働組合総連合(電力総連)は原発推進、再稼働賛成の立場で、民進党が進めようとした将来の原発ゼロに待ったをかけました。 今回の小池氏の独裁的な排除の是非はともかく、「しがらみのない政治」に連合のような組織の支持が必要かというと疑問ではあります。連合自身も、来し方を考え直すべきではないでしょうか。 (※注):96年結成の民主党と、この時できた民主党を分けて表記するのが慣例ですが、わかりにくいので連続性を重視して「合流」という言葉を用いました。
----------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など