『ライオンの隠れ家』尾野真千子の“主役”回に “会いたい”からのラストシーンの衝撃
ライオン(佐藤大空)の母親――愛生(尾野真千子)は生きている。前回のエピソードの終盤で、その希望的な可能性が洸人(柳楽優弥)のなかで確信へと変わり、同時に視聴者に対しては彼女の姿をもってそれが明示された『ライオンの隠れ家』(TBS系)。 【写真】『ライオンの隠れ家』第5話放送後カット(全30枚) 11月8日に放送された第5話は、この“愛生は生きていた”という前提のもと、これまでのような小森家と山梨県という距離を隔てたパート分けではなく、“洸人たち3人の物語”と“愛生の物語”の併行というかたちで綴られていく。 新宿のキャバクラで働いていた愛生の姿を隠し撮りした天音(尾崎匠海)。すぐさま工藤(桜井ユキ)にそれを報告し、愛生が生きているという内容のウェブ記事が掲載される。それを見た洸人は工藤に連絡をとるのだが、かえって工藤から事件への関与を詮索されてしまう。一方、X(岡山天音)の指示でキャバクラ店から逃げ出した愛生は、その際に財布を奪ったことで窃盗犯として警察に追われることとなり、そこにウェブ記事を見て山梨からやってきた高田(柿沢勇人)も加わることとなる。 前回のエピソードの序盤、Xのパソコンに届いていた複数の不穏なメール。そこに記されていた内容を改めてチェックしてみると、なんらかのかたちで追い詰められた人たちが“自分自身を消してほしい”とXに依頼しているのである。今回、愛生とXのやり取りのなかで「計画」「契約」という言葉が登場する以上、愛生も同様にXに“自分を消す”よう依頼したのだと推察することができる。その理由についてははっきりとは明かされていないが、おおよそ夫・祥吾(向井理)によるDVと息子・愁人(=ライオン)への虐待から逃れるためなのだろう。 加えて、なぜ愛生は自分ひとりを消すことを選び、愁人を小森家に託すことになったのか。それは回想シーンで描かれた、前回のエピソードにも登場した2015年の夏の小森家でのできごと――結婚を控えた愛生が久々に小森家を訪れ、母親である恵美(坂井真紀)と再会する一連から見えてくる。 「なにかあったら遠慮なく頼っていい」 そういえば、愛生は両親の死を知っていたのだろうか。いずれにせよ、愁人だけは頼れる家族のもと、すなわち“安全なプライド”に託すという親心のあらわれだ。 愛生についての大枠が見えてもなお、第2話でXが洸人を追跡した一連であったり、牧村(齋藤飛鳥)を協力者に引き入れた理由(今回電話で語られる「見殺しにする」という言葉が関係してそうだが)、なによりライオンのぬいぐるみに付けられた発信機と盗聴器の意図などミステリアスな部分はまだ多く残されている。その盗聴器は、今回Xからスマホを奪ってネットカフェに逃げ込んだ愛生が、久しぶりに愁人の声を聞くという情感あふれるシーンを生みだすきっかけとして効果的に作用する。そこで抑えきれなくなった“会いたい”という感情が、あの遊園地でのラストにつながるわけだ。 約束の時刻に広場で愛生の姿を見つけ、駆け寄る愁人。それがスローモーションで映される時点で、ハッピーな展開は訪れないのだと示されたといってもいい。Xに指示されて来たのであろう牧村が愁人を制し、目の前で警察に連行される愛生。それを陰から見ている工藤たち。連れて行かれる愛生が、洸人に対して何か言葉を発している。主たる登場人物たちがほぼ一堂に会する物語の折り返し地点。ここからこのドラマの本当の姿がひとつずつ紐解かれていくのであろう。
久保田和馬