「何がしたいのかよくわからない」意図が見えない松井宏佑の走りに、帝王・山田裕仁氏が苦言!/函館競輪G3・決勝レース解説
競輪は強敵が嫌がることをやってナンボ
これで、今年三度目のG3優勝となった古性選手。松井選手の番手を冷静に奪いきり、最後は余裕をもって差しきるというパーフェクトな走りで、その強さを見せつけました。三谷選手がスタートを取ってくれたことで、前受けからレースが組み立てられたのもプラスに働きましたね。「どんな展開でも勝負できる位置を取る」という意識の強さと、実際にそれを実行できる技量の巧みさは、本当に大きな“強み”です。 それとは対照的に、正直なところ私には「何がしたいのかよくわからない」競輪をしていたのが、松井選手。番手は同県の郡司選手ですから、どういったレースをするかという相談を、腹を割ってできていたと思うんですよ。実際にそこでどういった話になったのかはわかりませんし、松井選手にすべて任せるといったシンプルな内容だったかもしれませんが…いずれにせよ、勝つための“考え”があまりにも足りません。 レース後のコメントを確認したところ前受けからの組み立てを考えていたようですが、それでも、もし後ろ攻めになった場合にどういったプランで挑むか程度は、何パターンか考えておくのが当然の話。「古性選手に飛びつかせないように行った」ともコメントしていましたが、それならばあそこでスピードを緩めた意味がわからない。それならばせめて、郡司選手までが出切ったカタチになってから緩めるべきですよね。 古性選手が前受けから突っ張り先行に持ち込む可能性は低いですから、早めに動けば、いったん前を斬ることもできたはず。打鐘前のあのタイミングで仕掛けて、位置にこだわる古性選手が素直に下げてくれるケースなんて、ほとんどないといっても過言ではないでしょう。それに、今回の松井選手がとった選択肢も、じつはけっして悪手ではないんですよ。問題はその後で、そこがあまりにも素直だったいうか…。
松井選手だけが前に出て、内の古性選手と外の郡司選手が併走状態になった打鐘前。もし私が松井選手ならば、あそこから徹底的にペースを落とします。古性選手を抑え込むのは郡司選手に任せて、自分が優勝できる位置から仕掛けられるように、ペースを落として脚を温存。そのままの隊列で、ゆったりしたペースで最終ホームに帰ってきて、最終2コーナーあたりからのダッシュ戦に持ち込めれば理想的です。 最強の敵である古性選手をずっと「内で詰まる」カタチに持ち込めるわけで、あとは郡司選手が古性選手を抑え込んでいてくれればくれるほど、自分が優勝できる確率がアップする。もし、途中でしびれを切らした岩津選手が後方からカマシてきた場合には、前に出してしまえばいい。中国2車ならば3番手から、小倉選手がそれについてきても4番手から捲ればいいだけで、岩津選手とのタテ脚勝負ならば松井選手は負けませんよ。 それに、岩津選手を先に行かせる展開ならば、古性選手を抑え込んだまま後方に置くこともできる。自分が主導権のダッシュ戦よりも、自分が優勝できる可能性はこちらのほうが高いかもしれませんね。しかし、実際の松井選手は、こういった「ずる賢い」立ち回りをせず、いたって素直に駆けてしまっている。古性選手に有利な展開を松井選手が作り出してどうするのか…と私は言いたいですね。 単純にスピードだけならば、松井選手は輪界でもトップクラス。そのスピードをもっと生かすために、あらゆる状況を想定した戦略や戦術をもっと勉強してほしいし、考えてほしい。常に言っていることですが、競輪という競技は、強敵が嫌がることをやってナンボ。どんな展開でも脚力だけで圧倒できるような選手ならばともかく、それ以外の選手は“知恵”での戦いを、けっして疎かにしないでほしいと思います。