九州の人気コーヒー店が東京・下北沢に進出! 洗練された空間での1杯に秘められた熱いストーリー COFFEE COUNTY(コーヒーカウンティ)
九州の人気店が東京進出 生産者の思いも届ける
スペシャルティコーヒーという言葉がまだ一般的でなかった黎明(れいめい)期からコーヒーに携わっている人たちの話を聞くと、どのストーリーも本当にユニークで、その人の人生そのものに触れている気がしてくる。2023年に九州の人気店「コーヒーカウンティ」が下北沢に進出したと知って、ずっと気になっていた。オーナーの森崇顕さんが10年前にニカラグアに渡り、そのまま3カ月間農園で働いたという話を聞いたことがあったからだ。 【画像】もっと写真を見る(9枚) 森さんは大学生のころにコーヒーに興味を持ち始め、卒業後は札幌に移住して「自家焙煎(ばいせん)珈琲店CAFÉ RANBAN」で働きながら喫茶店のイロハを身に着けた。 その後、さまざまなコーヒー店で働くうちに、どうしても“作る側”を見てみたいという思いが募り、単身でニカラグアに渡る。 そこで3カ月間生産者と生活を共にしながらコーヒー生産に携わり、帰国後はそのコーヒーの魅力を伝えるべく九州に戻り、自分のペースでコーヒー店ができる場所として久留米を選んだのだという。 最近でこそ生産者に注目が集まり、カフェと農園との距離が近くなっているが、10年も前に、しかも単身で、見学だけにとどまらず一緒に生活したと聞くと、その大胆な行動力と、10年以上経ってそれがどのような形になっているのかに、がぜん興味が湧いた。 下北沢エリアの中でも、駅周辺の喧騒(けんそう)からはすっかり外れた住宅街の一角に、モダンな赤茶色の建物。外観はとても目を引くが、カフェと知らなければ少々入りづらい。 大きな木のドアを開けて中に入ると、外観とシンクロする赤茶色の壁に囲まれた飛び切りおしゃれな空間が広がっている。半円形を所々に取り入れた丸みのある構造で、その曲線に沿って椅子が配されている。配置は独特だが、よく計算されていて、客同士が目線を合わせずに済む。 れんがの床や土壁は、農園の住空間や洞窟をイメージしたものだそうだ。もう少し武骨な内装を想像していたが、細部までこだわった美しいインテリアは、居るだけで心がゆったりと落ち着いた気持ちになる。 香りを確かめられるようにガラスのキャニスターに入れられたコーヒーと、その詳細を記したカードが、カウンターの上に整然と並べられ、その奥でバリスタが次々と、でも丁寧にコーヒーを抽出している。 店長の風間峻さんも、物静かで物腰柔らか。ハンドドリップでコーヒーを淹(い)れる姿も、インテリアと調和してとても絵になる。モダンアートのような洗練された空間だが、緊迫した空気はなく温かみがあり、スタッフとコーヒーについて会話を交わしたり、お気に入りの本を広げて読書したりと、思い思いに過ごせて、とにかく居心地がいいのだ。 豆は自分でセレクトしてもいいし、好みを伝えれば提案もしてくれる。10年を過ぎた今でも、森さんたちが一番大事にしているのは、「いい豆を見つけてきて、その良さを生かす焙煎をしてお客様に届けること。そして届ける時に、その豆の特徴や生産者の思いなども伝えること」。こだわりが強いというより、すべての工程を自分たちの納得のいくように丁寧に行っているといった感じだ。 豆の生い立ちや特徴など、コーヒーカードにびっしりと書かれた熱のこもった説明を読むと、コーヒーへのほとばしるような愛情が感じられる。扱う豆は常時6、7種類ほど。ほとんど森さん自身が訪れた農園のものだ。 今回オーダーした豆は、2018年と2023年の2回、最寄りの空港から10時間以上かけて行ったというペルー・プーノ県キキラコミュニティ産のブルボン種。もうひとつは、自社輸入の買い付けが3年目になるという定番の豆、コロンビア・ウイラ県サンイシドロ農園のピンクブルボン種だ。最高の空間で飲む最高のコーヒー。すばらしいコーヒータイムに感謝だ。 COFFEE COUNTY(コーヒーカウンティ) 東京都世田谷区北沢1-30-3 1F https://coffeecounty.cc/ ■著者プロフィール 熊野由佳 ライター&エディター 徳島県出身。外資系ジュエリーブランドのPRを10年以上経験した後にフリーエディターに。雑誌やWebを中心に、旅、食、カルチャーなどをテーマに執筆中。無類の食べもの好きでもあり、おいしい店を探し当てる超(?)能力に恵まれている。自分の納得した店だけを紹介すべく、「実食主義」を貫く。2020年~2024年には「口福のカレー」を連載し、96店を実食した。カレーに勝るとも劣らないコーヒー好きが高じて、2年前からインド発コーヒーブランドの広報も担当。新連載「口福のコーヒー」では、コーヒーをもっと楽しむための耳寄りな情報を発信中。
朝日新聞社