「KEIRINグランプリ2024」同日開催の「寺内大吉記念杯」とは。作家が冠レースとなっているワケ
競輪界最高峰の激戦が、静岡競輪場で幕を開けます! 2024年12月28日から30日、静岡競輪場で開催される「KEIRINグランプリ2024」シリーズ。最終日の第11レースでは、優勝賞金1億4000万円を懸け、競輪界のトップ選手9名が栄光を目指して戦います。
GPシリーズ中に開催される「寺内大吉記念杯」とは
この期間に、同時開催されるS級戦が「寺内大吉記念杯競輪」。2008年以降、KEIRINグランプリシリーズにおけるF1レースとして始まった、競輪を愛した作家・寺内大吉を讃えるレースです。寺内大吉は、浄土宗大吉寺の住職でありながら、作家として直木賞を受賞しました。 寺内の代表作に短編小説『競輪上人随聞記』(1961年)があります。僧侶が競輪で破滅と再生を体験し、ついには予想家となる物語です。さて、物語の中の「和尚」の教えとはどのようなものなのでしょうか。
一攫千金を狙う僧侶の物語
ここから、簡単に物語の説明をしていきます。1953年(昭和28年)、競輪が九州の小倉で誕生して5年目のこと。真面目な青年僧侶・伴 春道は、戦災で焼失した寺の再建資金を集めるため、松戸付近の檀徒を回っていました。しかし、住民たちも貧しく、なかなか資金は集まりません。 ある日、疲れ果てた伴は偶然訪れた競輪場で100円を賭け、1万4000円を当てます。この成功体験をきっかけに「新時代の偉大な金融産業」と競輪を捉え、寺の浄財を使いこんで軍資金に充てるようになりました。 しかし、ビギナーズラックは長続きせず、負けが続いて寺の再建資金の大半を失い、檀家たちの信用と信頼も失います。競輪場通いのため母親の最期にも立ち会えませんでした。懺悔生活を送るも競輪への執着は断ち切れず、競輪新聞を基に独自の予想理論を編み出します。
伴 春道の「必勝法」
物語の中で、伴 春道が競輪新聞の予想印から編み出した「必勝法」とは、どのようなものだったのでしょうか。それは、カジノなどで知られる「マーチンゲール・システム」のように、負けるたびに賭け金を増やして最終的に損失を取り戻し、利益を得ようとする「倍追い法」でした。 伴は、◎からXの組み合わせが6レースに1回は的中する傾向を見つけます。これに注目して、まず1000円から始め、はずれたら次のレースでは2000円、その次は4000円……と、賭け金を倍々で追いかける作戦を考えました。 しかし、6レースに1回の的中とは、30レースに5回的中する確率と同じです。そのため、25レース続けて的中せず、残りの5レースで連続的中する可能性もあります。必ずしも6回目ごとに1回的中するわけではないからです。 最悪の事態は、どれほどの資金が必要になるのでしょうか。伴の計算によれば、26レース目に必要な賭け金は「332億6675万2000円」に達します。それまでに投入した総額は「この2倍から1000円を引いた金額」として、約700億円に近い額が弾き出されました。これは当時の日本の年間国家予算に匹敵する金額です。 さらに、1レースで300億円の売上を持つ競輪場は存在しませんので、自己資金がそのまま払い戻しに回る「タコ配当」の状態になります。この場合、数百円の配当額も得られない可能性が高く、現実的な必勝法ではありません。 しかし、伴は解決案を思いつきます。それは、「15レース以上的中していない競輪場」を狙うというものです。この条件であれば、10レース分の「102万3000円」の資金で勝負ができると考えました。こうして、伴は決死の覚悟で勝負に挑みます。