「KEIRINグランプリ2024」同日開催の「寺内大吉記念杯」とは。作家が冠レースとなっているワケ
予想家になった和尚の教え
勝負は恐ろしくも好運な結果となり、伴春道は大穴を連続して的中させ、寺の再建を賄えるほどの大勝を収めることに。一方、競輪場の隣席には、伴とは裏のXから◎で勝負して全財産を失い、身を売ることまで思いつめた若い女性が座っていました。伴自身も、彼女と同じ境遇に陥っていたとしても不思議ではありません。 その後、伴は彼女と深い仲となり、心中を迫られるという修羅場を経て、人生を見つめ直すきっかけを得ることになります。伴は寺を離れ、この女性と競輪場をさすらいながら再生の旅に出ることを決意。「正しい競輪道」を説く行脚を始めます。 「正しい競輪道を亡者どもに説いてやらねばならん。そうでもしないと、奴らはあがきのとれぬ泥沼の底へ引きずりこまれてしまうからな」 伴は競輪を単なるギャンブルではなく、欲望や運命に向き合う場と捉えます。 「ええか。バンクを走るのは、お前らじゃないんだぞ。(中略)見ず知らずの若僧たちに大金を張るなんて、以ての外だ。競輪必勝の道はな、もっとも少ない元手で、最も大きな金……いや、これは口が滑った。欲ばらないで、分相応の配当金を頂くところにある」 身を滅ぼしかけた僧侶がたどり着いた境地は「欲を抑え、分相応の配当を得る」でした。確かに理にかなった勝負の一つではあります。 一方、負けるたびに賭け金を倍増し、損失をわずかに回収しようとする賭け方は、ライバルの車券購入者たちにとって歓迎される存在かもしれません。大きな賭け金が総賭け金を増やし、主催者の収益を高めるだけでなく、特定の選手に集中した賭け金がオッズを下げることで、他の車券の配当を押し上げる可能性があるからです。
今年も「奥深い競輪の世界」に期待
このように伴 春道を通して、寺内大吉は勝負の考え方を語りました。選手一人一人の脚質や調子、バンクとの相性を見極め、自分に合った予算で大きな配当を狙う楽しさを味わいたいものです。 「KEIRINグランプリ2024」シリーズでは、寺内大吉が小説『競輪上人随聞記』で描いた競輪上人・伴 春道の姿を思い浮かべつつ、勝負に挑んでみてはいかがでしょうか。今年のクライマックスとなるシリーズで、奥深い競輪の世界を堪能してください! 文/木村邦彦 【木村邦彦】 編集者・ライター。法政大学文学部哲学科卒業後、歴史、金融、教育、競輪など幅広い分野の専門メディアに関わり、大手競輪メディアではニュースやコラムを執筆。現在は、アルコールやギャンブル依存症の回復支援団体で広報も担当。FP2級と宅建士の資格を保有。趣味は油絵とコーヒー。
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