米国で愛された名物母グマが車にはねられ死亡、1歳の子は行方不明に 「悲しすぎる最終章」
自制心を思い出させてくれる象徴
1996年に生まれた「399」は、米イエローストーン国立公園から半世紀にわたってハイイログマがほとんど根絶されていた近くの原野へとクマが再定着する波の一部だった。 2007年、「399」はエルクの死骸に近づいたハイカーを襲った。そのハイカーの要請を受け、当時のティトンの公園管理者メアリー・ギブソン・スコット氏と、米魚類野生生物局の元ハイイログマ回復コーディネーターであるクリス・サービーン氏は、「399」を殺すことも、「399」とその子グマたちを野生から追い出すこともしないことを選んだ。 この出来事の後、「399」はより広く知られるようになり、毎年春になると、見物人たちは「399」が冬眠から目覚めて現れるかどうか心待ちにしていた。 「399」は子グマたちと共にジャクソンホールの中心部や郊外をよく歩き回った。ジャクソンホールに50年住んでいる医療管理者で野生動物擁護者のシンディ・キャンベル氏は、「399」が夜間に自宅のドア付近を歩く様子を遠隔ビデオで撮影したことがある。 「人々がハイイログマを好まなくても、『399』に対して好意を持たないのは難しかったです」とキャンベル氏は言う。「だいたいにおいて、私たちのコミュニティは『399』が私たちの近くに住むという重い責任を受け入れ、『399』は私たちに自分たちの弱さを理解させてくれました」 「399」が出現した数日後には、1000人もの人々が集まることもあった。この集まりにより、「399」や他の野生動物が殺されたり、人間との衝突に巻き込まれたりするリスクが高まることもしばしばあった。 だからこそ「『399』は、私たちが常に自制心を働かせて警戒する必要があることを思い出させてくれる存在であり、象徴でした」と、米モンタナ野生生物連盟の理事長を務めるサービーン氏は言う。
あるべき大地に還ってほしい
近年、「399」の老いが明らかになっていた。一例として、歯が著しい摩耗の兆候を示していた。 「誰もそのことについて話したくはなかったですが、『399』が私たちのもとを去る日が来ることはわかっていました」とマンゲルセン氏は言う。氏はより「詩的な結末」を望んでいたが、「399」が車にはねられて亡くなったことに打ちのめされている。 「しかし、動物に対する人間の圧力が日々増している野生生態系において、このような事故の可能性は常に大きいのです」とマンゲルセン氏は言う。 連邦の野生生物当局と話したサービーン氏によれば、「399」は剥製にされて目立つ場所に展示されるかもしれないそうだ。しかし、ジャクソンホールの住民の中には、「399」をそのままの姿で記憶しておくべきだと感じている人もいる。 「もし『399』が博物館の標本のように剥製にされるなら、それは『399』がトロフィーになるようなものです」とシダーホルム氏は言う。 「私たちの多くにとって、『399』の遺体が人里離れた野生の場所にそっと安置され、あるべき大地に還る方が良いのです」
文=Todd Wilkinson/訳=杉元拓斗