【漫画】幽霊=ジメジメした悲壮感、というイメージの逆をいきたかった。人間✕幽霊の百合漫画を描いたポジティブな怪異話の創作過程とは【作者に聞く】
SNSを中心に創作活動をしている恋ドロ(@koidoro_super)]さんは、主にXやpixivで百合作品を公開されている。その作風は多岐にわたり、シチュエーションからテーマまでさまざまだ。なかでも、『図々しい怪異女』と題した作品は、自室に住まう幽霊との恋愛を描いた百合作品で、ファンたちの間で「発想が面白い」と話題を呼んでいる。本作をはじめとして、百合作品を描きはじめたきっかけ、創作の過程についてうかがった。 【漫画】本編をイッキ読みする もともと“『見える』体質”だった主人公の部屋に、ある日突然現れた女性。独り言に返事をしたのをきっかけに、2人はコミュニケーションを取り合うようになった。その後、どんどん図々しくなっていく幽霊の様子に、思わずくすりと笑ってしまう。 本作を執筆したきっかけについて、恋ドロさんは以下のように語る。 「もともとホラー映画やホラー小説、心霊動画などが大好きだったので、自分でもいつか怪異が登場する作品を描きたいと思っていました。ガッツリ怖いテイストの話も考えてみたのですが、自分の作風や絵柄がホラーに全振りするのにはあまり向いていなさそうだなと感じて。それで、ギャグに寄せた怪異話を考え、創作漫画として描き上げました」 「幽霊とのルームシェア」と聞けば、まさにホラーど真ん中の作品を想起させる。しかし、本作ではコミカルなタッチで、幽霊と人間との一風変わった恋愛模様が描かれている。本作に対する読者の反響は、どのようなものが多かったのだろう。 「『発想がおもしろい!』『どうしたらそんな設定思いつくんですか?』など、ストーリーに関してお褒めの言葉をいただきました。今までの作品と比較しても、いただいた反応の数が多かったように思います。怪異女のビジュアルを描く時、『怖すぎないように、でもちゃんと怪異の要素も出せるように』と気を付けたのですが、案外『可愛い』という反応もあって、それは予想外でした」 「女の子2人が仲良さげに話しているように見えるけど、実は片方が相手に対して『この子誰なんだろう。全然知らない子なんだけどな』と思っている」というシーンが、スコーンと頭の中に浮かんできたと語る恋ドロさん。そのシーンを軸にした展開をパズルのように組み立てていった結果、“幽霊とのルームシェア”の設定が生まれたという。加えて、登場する怪異女は「めっちゃ自己肯定感の高い」キャラクターである。怪異女の性格がポジティブだからこそ、本作は幽霊特有のジメッと感がなく、さわやかな気分で楽しめる。 「怪異女を『自己肯定感の高い』女性にすることは、はじめはまったく頭にありませんでした。ただ、読んでいる方々の予想を裏切るのが好きなので、幽霊=ジメジメ、悲壮感というイメージの逆をいって、『ポジティブな怪異を描いてみよう』と思ったんです。私の天邪鬼な性格から、自己肯定感の高い怪異女が生まれたといえるでしょう」 恋ドロさんが百合作品を描きはじめたのは、2021年頃から。絵や漫画を描くのはもともと好きで、「オリジナルの漫画を描いてみよう!」とふと思い立ち、創作をはじめられたとのこと。その後、百合作品にテーマを絞った理由についてうかがった。 「オリジナル創作をはじめる際に、ジャンルを絞った方がいいと感じたため、自分の描きたいものを改めて見つめ直した結果、『百合』を描こう、という決断にいたりました。ガッツリ女性同士の恋愛を描くというよりは、友達以上恋人未満のような作品が多いので、『こんなの百合じゃない!』とお怒りのリプライがきたらどうしよう……と、初期のころは怯えながら漫画をアップしていた記憶があります(笑)。幸い、創作百合ファンの方はみなさん優しい方ばかりで、いただく感想も温かいものが多く安心しました」 恋ドロさんは、『図々しい怪異女』のほかにも多くの作品を手掛けている。中でも『やっぱり大嫌いってなる百合』では、嫉妬の対象者を「嫌い」と言いながらも、関わりを重ねる中で双方の距離感が変化する様が印象的だった。恋ドロさんにとって「好き・嫌い」の感情は、「相反するものではなく、同居するもの」だと語る。 「極端な言い方になってしまいますが、『好き・嫌い』はもはや同じ感情なのでは?と思うこともしばしばあります。相手を好きで意識するからこそ、嫉妬やライバル心、『あいつムカつく!』といった感情が生まれてくるんですよね。根底に尊敬する気持ちがなければ、その境地まではいかないし、そもそも興味すら湧きません。そういう意味で、場合によっては『好き・嫌い』は表裏一体で同じものと言えるのではないでしょうか」 『童話百合~木こりと女神様~』では、広く知られる童話『金の斧 銀の斧』のオマージュが描かれている。百合漫画を描く上で、こちらの題材を選んだ理由についてうかがった。 「童話のオマージュを描いてみたくていろいろ探っていたのですが、『金の斧 銀の斧』がいちばん描きやすそうだなと思い、プロットを作りました。童話ネタを描くのがはじめてだったのでスムーズにいくか不安だったのですが、ネーム・下書きまでサクサク進んだので、題材選びがうまくいってよかったとホッとした記憶があります。『かぐや姫』や『一寸法師』『人魚姫』など、実は描きたいと思っている童話オマージュがいくつかあるので、近いうちに実現できればいいですね」 『飲み会サボってよかった』では、人目を気にして飲み会を断れない主人公が登場する。「断れない」「断ったら自分のいないところで悪口を言われるかも」という不安に共感する人は多いように感じるが、恋ドロさんご自身も似たような経験をされたのだろうか。 「私は、行きたくないと思う飲み会は、わりとサクッと断ってしまうタイプで(笑)。ただ、周りの友達の話を聞いていると、けっこう断れない人が多い印象があったので、そういった友達のエピソードを集約して『飲み会サボってよかった』を描き上げました。最近の飲み会や食事会は、『行きたくないなら断って大丈夫』という風潮になってきた印象があります。行きたくない飲み会に無理をして行くのは辛いと思うので、世間がそういった流れになっているのはよい変化だと感じます」 幅広い創作百合作品を描き続ける恋ドロさんは、自身の描き手としての見聞を広げるためにも、テーマを絞らず、前作とのネタかぶりを避けてさまざまなジャンルに挑戦している。最後に、恋ドロさんから読者へのメッセージをいただいた。 「いつも創作百合を読んでいただき、ありがとうございます!読者のみなさまの存在が、モチベーションになっております。今後もコンスタントに作品をアップできればいいなと思っているので、ぜひ楽しみにしていてください!いいねを押していただいたり、ブックマークしていただけるのもありがたいのですが、感想に飢えているので、XやPixivなどで気軽に感想をいただけると嬉しいです」 取材・文=碧月はる