死刑囚だった袴田巖さんを釈放… 異例の決定をした元裁判長が明かす「有罪を見直せない裁判官の心理」
猫に小判
この日の「わかる会」では、最後に浜松市で巖さんの身の回りの世話をする「見守り隊」隊長の猪野待子さんが「袴田家物語」で写真を見せながら近況を紹介した。それによると、今年になって袴田家では2匹の猫を飼い出したという。「殿」(雄・6歳・白黒)と「ルビー」(雌・7歳・茶色)である。猪野さんら支援者が一緒に世話をしている。 巌さんもひで子さんも2匹をとても可愛がり、巖さんは餌を買ってきてやったりするのだとか。なんと巖さんは「おいしい物を買ってもらいなさい」と言いながら、猫に千円札や一万円札まであげてしまうそうだ。ある時など、猫が1万7000円ほど持っていて、その都度、ひでこさんが回収する「いたちごっこ」が続いていたという。 そういえば、巌さんは浜松市内のパトロール(有体に言えば散歩)でも、千円札や五百円玉を花壇に置いたりすることがあった。動植物や昆虫(例えば独房での蜘蛛)にまで心優しい巖さんならではの風変わりな行動だが、別の動機も想起してしまう。 巖さんは逮捕されて幼い子供と生き別れ、我が子にお小遣いをあげるような父親らしいことができなかった。ひょっとして、それを今、しているつもりなのではなかろうか。そんなことを想像すると冒頭の白井さんのように涙腺が緩むのでここで置く。 粟野仁雄(あわの・まさお) ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。 デイリー新潮編集部
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