4番の仕事とは? 巨人・岡本和真の打席を見て思い出す「伝説の10.8決戦」の4番・落合博満…エース今中に呟いた「オレはアイツの真っ直ぐは打てん!」
巨人・岡本和真内野手の打席を見ながら、ここのところずっと「4番の仕事」とは何かということを考えている。 【写真】「アイツの真っ直ぐは打てん!」10.8決戦の落合の一撃&ビールでびしょ濡れの落合/“少しロン毛”坂本21歳や謎のカツラな松井秀喜(広末涼子もエスコート)、私服姿の桑田19歳、溶岩の中をウロウロする槙原など巨人名選手の若き日を一気に見る 今まで見てきた「4番の仕事」で、真っ先に頭に浮かんでくるのは、「10・8決戦」での「落合博満」の姿だった。 1994年、巨人と中日が69勝60敗でピタリと並び、中日の本拠地・ナゴヤ球場で行われたペナントレース最終戦での直接対決だ。 巨人・長嶋茂雄監督(現巨人軍終身名誉監督)は、先発の槙原寛己投手から斎藤雅樹投手、桑田真澄投手と先発3本柱を次々とつぎ込み中日を圧倒。一方、中日・高木守道監督は先発のエース・今中慎二投手に全てを託して一戦に臨む。しかしリードを許して追いかける展開になると、山本昌広(現昌)投手、郭源治投手ら主戦投手をマウンドに送り出すことなく敗れ去った。
巨人「4番の仕事」を任された落合博満
総力戦で戦った長嶋巨人の勝利と言われた歴史的な一戦である。 だが、この試合の勝負を分けたもう1つのポイントが「4番の仕事」だった。そしてこの試合で巨人の「4番」を任されたのが、中日から移籍1年目の落合博満内野手だったのである。 落合はこの試合に「4番」として、すべてを注いでいた。 その証は試合前の行動に表れている。 中日先発の今中は“巨人キラー”として、ナゴヤ球場では4年越しで対巨人11連勝中という圧倒的な数字を残していた。そのため巨人は決戦前夜のミーティングでは、今中のクセを分析したビデオなどで徹底解析。翌日の戦いに備えていた。 しかし落合だけは「オレはいいや」とそのビデオを観ずにミーティング会場を後にしている。投球のクセは絶対ではない。カーブと思って踏み込み、もし真っ直ぐがインコースに来たら頭に死球を受ける危険すらある。 「危ないからオレはやらない(クセは見ない)」 それが落合の考えだった。
落合の呟き「今中の真っ直ぐは打てん!」
代わりに落合が勝つために、今中を打ち崩すために、とった行動。それは今中と中村武志捕手が組む中日バッテリーの、メンタルを攻めることだった。 10月8日、試合当日の練習での出来事だ。 中日のベンチで巨人の練習をずっと観ていた中村を見つけると、落合は一塁側にやって来てベンチ前の金網にスッと腰を下して呟いた。 「今日は今中だなあ……アイツ、本当にすごいピッチャーだよ。あのカーブがあって真っ直ぐが来たら、オレはアイツの真っ直ぐは打てん!」 それだけ言い残して立ち上がると、一塁ベースの方に歩いて行ってしまった。 これにはもう1つ伏線があった。 フリーエージェントの権利を行使して中日から巨人に移籍した前年オフ、中日の納会に出席した落合は、今中には「お前の打席に立ったらカーブしか狙わん」とボソッと呟いていたのだ。 もちろん今中にカーブを投げさせようとか、中村に真っ直ぐのサインを出させようということではない。バッテリーの心に揺さぶりをかけたのである。そういう心の揺らぎが、どこかで投球に迷いを生み、そこにスキが生まれる。今中を打ち崩すことが、困難なことをわかっている。だからこそそういう手段を使ってでも、この試合に全てを懸けた。 それも「4番の仕事」の1つだった。 2回に「打てない」と中村に言ったストレートを狙い打って右翼に先制本塁打。2対2の同点に追いつかれた3回の打席では、1死二塁から再びインコースのストレートを詰まりながら右前に落とす適時打を放った。このタイムリーで勝ち越した巨人は、結局、最後まで中日に追いつかれることなく6対3で逃げ切ることになる。 「ここさえ抑えれば勝てる、という場面が試合にはあって、いつもは6回か7回くらいに(そういう場面が)くるのが、あの試合は3回だった」 後に今中がこう振り返ったように、勝負の行方を分けた一打はここにあった。 そういう一打を放つ。それが究極の「4番の仕事」なのである。
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