「本当はこのドラマが必要なくなるのが一番嬉しい」『やさしい花』を通して伝えたい4つのこととは? トーク会&上映会レポート
NHK大阪放送局が展開する「子どもを守れ!」キャンペーンの一環として制作されたドラマ『やさしい花』(2011)。「児童虐待」をテーマとした本作は、放送から13年が経った今でも上映会が後を絶たない。今回は、10月31日(木)に大阪府岸和田市で開催された本作のトーク会&上映会イベントの様子をご紹介する。(取材・文:田中稲)
放送から13年 我が子に手をあげてしまう母の再生ドラマ『やさしい花』が今なお求められ続ける理由
ドラマは、他人事を自分事の目線に変える力がある。それを感じるのが、安田真奈脚本のNHKドラマ『やさしい花』(平成23年度文化庁芸術祭参加作品)である。 わが子に手をあげてしまう若い母親と、その母子に手をさしのべようとする隣人の物語で、2011年、大阪放送局が展開する「子どもを守れ!」キャンペーンの一環として、「児童虐待」をテーマに制作された。それからもう13年も経つが、今も関西を中心に、このドラマの上映会が後を絶たない。 43分という短めの上映時間を活かし、1部を上映会、2部をトークショーや意見交換会にすることで、訪れた人たちが自然と自分の立場で話し合える場になっている。 今回取材で訪れたのは、大阪府岸和田市opsol福祉総合センターで開かれた「やさしい花トーク会&上映会」(10月31日)。 主催は、特定非営利活動法人「ここからKit」。取り組みの一つである、家庭訪問型子育て支援「ホームスタート」のビジター(ボランティアさん)についての紹介とあわせ、ドラマが上映され、トーク会に脚本担当の安田真奈が登壇した。 席が次々と埋まっていく。参加者は、ホームスタートに興味を持つ方、子育て支援に専門的に携わっている方、そして実際に子育ての難しさを経験した方などだ。
今も昔も、子育ては大変で、支援は難しい
『やさしい花』のあらすじは、次の通り。マンション暮らしの木原友子(石野真子)が、下の階から小さな子どもミツル(國分健太)の泣き声を聞きつけ、いてもたってもいられなくなる。 実は友子は、かつて子育てが大変な時期に、夫の卓也(西川忠志)の協力を得られず、育児ストレスから娘の葉月(早織)を虐待してしまい、葉月を養護施設に預けた経験があるのだ。 ミツルを怒鳴りつける若い母親、ユカ(谷村美月)に、かつての自分を重ねた友子は、思わず部屋を訪ねていく。そして、なんとかしてユカの力になろうと模索する――。 ユカはシングルマザーで、誰も頼ることができない苦悩が描かれる。疎遠になっている父親に思いきって電話するシーンがあるが、ドラマは2011年の作品なので、まだガラケーだ。 しかし、そこから聞こえてくる「自業自得や!」という父親の怒鳴り声や、子育てと仕事が両立できないもどかしさの一つ一つは、13年前のドラマであることを感じさせない。それはいまだに「子育ては主に母親が担うもの」という風潮があり、支援の難しさも変わっていないからだろう。 母親だから頑張ってあたりまえ。それができない自分は失格――。 心が折れそうになるユカに、友子が泣きそうな声で、「ユカさん、頑張ってるやん、偉いよ!」と言葉をかける。それを聞いてやっとユカが「助けてくれる?」と絞り出すように言うことができるシーンに、胸が締めつけられる。