ユーロ史上最年長、ペペが41歳になっても最前線で戦える理由「神様に導かれたんじゃないか...」
【貧しかった子ども時代】 ペペはそう言って、自然な笑みを洩らしていた。もっともその笑顔は、陽気というよりは、戦い抜く覚悟をした者だけが身につけられる類のものだった。 「ブラジルのマセイオという町で生まれ育ったんだけど、僕が住んでいた地区はお世辞にも柄がいいとは言えなくて。低所得者層の住宅地というか、かなり貧しかった。でも、父からは"すべては自分の意志と努力で決まる。しっかりとした道を歩みなさい"と言われた。子どもの頃は一緒に遊んでいた友人が、薬物にはまって廃人同様になる姿は痛々しかった。でも、人生は自分で選ばないといけない。自分にはサッカーがあった......ボールを蹴ることは幸せだし、サッカー選手であることが自分の道だと思っている」 貧しさから抜け出すハングリーさ。それはスポーツの世界では"定型"だろう。しかしペペはその精神を忘れず、サッカーに感謝しながらピッチに立ち続けた。それは彼の異能だ。 「神様に導かれたんじゃないか、と思える時がある」 ペペは言う。 「自然に体が動いて、そのプレーをしてしまうことがある。もしかすると、周りの人にはわからない感覚かもしれない。しかし、選手はそういうとき、"自分はそのプレーをするため、ここに存在しているんだ"と思う。そうすると、力が湧きあがってくるんだよ」 当時からペペには、「ピッチで勝ち残る。さもなければ次はない」という切迫したメンタリティがあった。だからこそ、どんなディフェンスにも適応できた。リカルド・カルバーリョ、ファビオ・カンナバーロ、セルヒオ・ラモスなど世界最高級のセンターバックとコンビを組み、鉄壁を誇っている。たとえばカンナバーロとは守りを固める速さに注意し、カルバーリョとは逆に先手を打つ守りを心掛けたという。 ペペは、そうして今日まで勝ち続けてきた。監督の体現者として、ジョゼ・モウリーニョが率いたレアル・マドリード時代は、かなり好戦的なタイプに映るほど"求められる選手"になりきった。妥協がないのだ。
インタビュー当時、憧れだったフェルナンド・イエロから授かったディフェンスの心得を暗唱していた。 「ディフェンスは常に注意を払い、裏のスペースを意識しなさい。重要なのは、チームメイトたちに絶えず声をかけること。選手たちがどこにポジションを取り、何をすべきか、それを明確にし、リーダーシップを取らなければならない。ピッチの中だけじゃなく、ピッチの外でも積極的に話し合うように......」 41歳になったペペは、今もその教えを忠実に守るようなプレーを見せる。 7月1日(日本時間2日4時~)、ポルトガルはベスト8をかけ、スロベニアと対戦だ。
小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki