特集「キャッチ」【世界初】「低軌道衛星」を使った遠隔ロボット手術 成長する宇宙産業は医療の分野にも 福岡で操作して福島で手術
スペースXの通信衛星「スターリンク」を活用
従来の肺がん手術の場合、最低でも15センチ程度、胸を切開する必要がありました。しかし、ロボット手術はおよそ3センチと1センチの穴を数か所開けるだけです。患者への負担が小さいのがメリットです。 福岡で操作し、福島で動くロボット。医師の繊細な手の動きを1000キロ先のロボットにどのように伝えているのでしょうか。
■打ち上げ 「3、2、1、and lift off」 今回の実証実験に使われたのは、アメリカの起業家、イーロン・マスク氏が率いる、スペースXの通信衛星「スターリンク」です。およそ6000機が宇宙に打ち上げられているといいます。 福大病院での操作情報は、専用のアンテナから高度550キロという低い軌道を飛ぶ人工衛星に伝えられます。さらに、複数の衛星を経由して福島のロボットに送られる仕組みです。福島側でロボットが動いた情報は、逆の経路を通って福岡側に伝えられます。 これまで、高度3万キロ以上の高い軌道の人工衛星などを使った遠隔手術実験は行われたことがありますが、通信のタイムラグや高額な通信費用が課題でした。比較的費用の安い低軌道衛星を使った、今回の遠隔手術は世界で初めての試みです。
■佐藤医師(福島県の手術室) 「よっしゃ、いいぞ、いいぞ、心臓側をちょっと開こう。」 ■上田医師(福大病院) 「心臓側に、はい。」 上田医師が福岡で操作し、佐藤医師が福島でサポートします。 ■佐藤医師 「左手で引っ張る。」 ■上田医師 「左手で引っ張る、はーい。」 ■佐藤医師 「左上に、そうだ、あんまり上に持っていくな。」
連携が重要な遠隔手術で、課題も浮き彫りになりました。 ■上田医師 「うわ、乱れています、画面が。 ごめんなさい、ちょっとお待ちください。」 画面の乱れ。さらに。 ■上田医師 「止まりました。」 ■佐藤医師 「なんか止まってんの、どうしたん。」 この日は、九州北部地方に線状降水帯が発生しました。天候の影響やロボットの設定の不具合が原因とみられる、通信の遅れがありました。 ■佐藤医師 「取れました。終わりました。」 開始からおよそ3時間後、手術は無事、成功しました。 ■上田医師 「もっと遅延が長い秒数、起こるのではないかと思ったのですが、普段と似たような感じで取ることができました。」 操作の際に生じたタイムラグは平均0.1秒ほどで、手術に支障のない程度の遅れでした。