なぜ欧州サッカーの舞台で日本人主将が求められるのか? 酒井高徳、長谷部誠、遠藤航が体現する新時代のリーダー像
2部降格の危機に直面していたクラブの主将に抜擢された酒井高徳
一方でブンデスリーガ1部リーグのクラブで正式にキャプテンを務めた先駆者となると、酒井高徳の名前が挙げられる。2016年11月、かつてはUEFAチャンピオンズリーグにも頻繁に出るほどドイツきっての名門で、レジェンドであるウーヴェ・ゼーラーをはじめ数多くの代表選手を輩出したハンブルガーSVのキャプテンに指名された。 当時のハンブルガーは2部降格の危機に直面していた時期だ。マルクス・ギスドル監督は不振状態のチームにポジティブな変化をもたらすためにと、それまでキャプテンだったスイス代表DFヨハン・ジョルーを外して、酒井を新キャプテンにと任命したのだ。 「ゴウトクはキャプテンとしていま自分たちの状況に必要なすべてを体現してくれる存在だ。ピッチ上で倒れるまで全力を出し尽くそうとする、疲れ知らずの選手。オープンで、正直で、コミュニケーションをとれる」 ギスドルはそう理由を明確に話し、メディアは大きく取り上げた。シーズン途中のキャプテン交代はそうある話ではない。ポジティブな変化をもたらす前に、チーム内に不穏な雰囲気をもたらすことだってありうる。だが、元キャプテンのジョルーも「時に変化が新しい力を生み出してくれる。ゴウはうまくやってくれるはずだ。この困難の時期にみんなで力を合わせて乗り切ることが大事」と酒井への全面バックアップを公言。この交代劇の影響もあり、クラブはこのシーズン、何とか残留することができた。 ただクラブはそこから浮上できず、運営もチームづくりもぱっとしないまま監督が次々に交代していく。翌シーズンの最後にはU-23からクリスティアン・ティッツ監督が就任し粘りを見せたものの、最終的にクラブは2部へと降格していった。クラブ史上初となる転落劇に静まり返るミックスゾーン。それでもキャプテンとして酒井はドイツメディアの前に立ち、口は重くても、それでもはっきりとしたドイツ語で対応した。そして「2部へ降格しても僕はクラブに残るつもり」とすぐに残留表明をしたのだ。この男気に多くのファンから拍手を送られた。 現実は簡単ではなく、その後クラブは昇格を果たすことができないまま、いまも2部を戦いの場としている。1部昇格できなかったことで酒井に対する風当たりも一時期相当に強かった。心を痛めることだってたくさんあったことだろう。それでも酒井は毅然と、常にチームのことを考え、キャプテンらしくあり続けた。