打倒・藤井聡太へ棋力上げるライバルたち 8冠陥落も「結果に拘泥しない」と高み目指す 藤井時代 永世棋聖誕生㊦
「普段指さないような展開が多く、勉強になった。考えていておもしろいことが多かった」 【写真】第9期叡王戦第5局で藤井聡太七冠に勝利し、翌朝の会見に臨む伊藤匠新叡王 ヒューリック杯第95期棋聖戦で5連覇を達成し、「永世棋聖」の資格を獲得した藤井聡太(21)は対局から一夜明けた2日、記者会見で今期の棋聖戦五番勝負を振り返った。 藤井が初めてタイトルに挑戦した令和2年の棋聖戦以来、藤井が臨んだタイトル戦の記者会見には、常に勝者・藤井の姿があった。奪取、そして防衛…。しかし、6月20日に甲府市で指された叡王戦五番勝負第5局で、記者会見のフラッシュの中にその姿はなかった。 八大タイトル(棋聖・竜王・名人・王位・叡王・王座・棋王・王将)を独占していた藤井。牙城の一角、叡王を奪ったのは伊藤匠(21)だ。 伊藤は昨年10~11月の竜王戦七番勝負、今年2~3月の棋王戦五番勝負で藤井に挑戦したが、1勝も上げられず実力差を見せつけられた。しかし、棋王戦敗退からわずか2日後に、叡王戦の挑戦権を獲得。その第2局でタイトル戦初勝利を挙げると、2勝1敗と藤井を追い込み、追いつかれてからも突き放して初タイトルをつかんだ。 藤井と同年齢でライバルとされながら、2度の苦杯をなめた伊藤。まだ盤面を挟んで藤井がいる対局場で「自分はずっと藤井さんを追いかけてここまでこれた。藤井さんがいなかったらタイトルも取れなかった」と率直な思いを明かした。 藤井の「8冠陥落」を、棋士たちはどう見ていたのだろうか。 永世棋聖の九段、佐藤康光(54)は「伊藤さんは本来持っている力を発揮した」と伊藤の充実ぶりを絶賛する。 前年の棋聖戦で藤井に挑戦した七段の佐々木大地(29)の目には、叡王戦五番勝負は「藤井さんが戦型選択で苦労している」と映り、藤井の指し回しを「そういうことをやるんだ」と意外性も感じたという。伊藤が得意とするAI(人工知能)も活用した将棋の研究は奥深く、日々進化している証しでもある。 しかし、佐々木は「叡王は失冠したが、藤井さんも地力は高い。今すぐに戦国時代になることはない」。〝藤井一強〟と呼ばれる状況は当面続くと分析する。