フルコース料理に進化!?日本のとんかつが外国人旅行者に人気の理由
【あの食トレンドを深掘り!】90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。 ◇ ◇ ◇
インバウンド人気でとんかつが再注目
「外国人旅行者にウケるとんかつ」のお題で、テレビの情報番組からコメント取材の依頼を受けたのは、昨年10月下旬だった。「またとんかつ?」と思った私は、塩で食べさせるとんかつの人気ぶりは知っていたが、さらに新しい流行が起こっていたことを知らなかった。なんと今は、とんかつのフルコースが登場していたのである。 とんかつは一体、どこまで進化を続けるのか。そこで今回、改めて今どんな流行があり、なぜとんかつが進化するのかを考えてみたい。 まず、塩で食べさせるとんかつは、2010年代半ば頃から話題になっていた。その中心はどうやら、東京・蒲田。今は閉店してしまった店も含め、「四天王」の異名まであるとか。なぜかエリア違いの清澄白河のカフェオーナーから、当時の自宅近所だった蒲田の「とんかつ 丸一」と「とんかつ檍(あおき)」の名前を教わり、夫と出かけたのがコロナ前。この2店は四天王の一角を占める。残り2店は閉店した。行ったのは確か丸一だった。のれんがかかった入り口の前に10人ぐらいの行列ができ、30分から1時間ぐらいは待った。席はカウンターだけの小さな店で、ソースはもちろん、何種類もの塩などが入った小壺が並び、好きな味つけを選んで食べる。衣はサクサクで肉厚のとんかつを、塩で食べるとうまみがジワーッと来た。 その後は、ちょっと並んでいるとんかつ店には、塩のセレクトがあると理解した。選べる塩は、ピンク色のヒマラヤ岩塩、トリュフ塩など色もカラフルで贅沢なもの。考えてみれば、今は塩の販売が自由化された影響で専門店が各地にあり、それぞれの個性を楽しむ人もいる時代だ。てんぷらに塩、という組み合わせも定着した。確かにとんかつも、臭みがない上質な肉なら、塩で食べるとより味がわかるだろう。 いつから塩で食べさせる店が登場したかは、定かでない。丸一は1964年開業の大森の店からのれん分けをして1978年に開業。この頃は、流通する塩のほとんどが専売公社が販売する精製塩だったので、ソースをつけたはずだ。とんかつ檍は2010年の開業で、ヒマラヤ岩塩などを選べる、と謳っているので、おそらくこの辺りから、塩で食べさせるとんかつ店が出てきたのではないかと思われる。 『NIKKEI STYLE』2019年2月15日配信記事で、塩で食べさせるとんかつ店が出てきたのは、ブランド豚が増えたからではないか、と推測している。確かに最近の人気店は、ブランド豚の使用をアピールする店が多い。 そして、とんかつコース。日本初を謳うのが「銀座かつかみ」で、2018年開業。とんかつブームの真っ最中である。かつかみでは、豚のさまざまな部位をカツにし、種類の違うトッピングで順に出す。そういえば、串カツも高級店になると具材ごとに順に出すし、てんぷらもそうだ。揚げ物は何と言っても揚げたてが一番おいしいからだろう。日本では、回っていない寿司屋も出来立てを出すし、カウンター割烹の文化もある。高級感を売りにするなら、確かに出来立てのコースはありだ。