部下は「なぜ」育たないのか…? “権力”のある「上司」ほど自覚すべき「不都合な現実」
新年度になり、人事異動や新入社員の入社など、職場の人間関係で苦戦している方も多いのではないでしょうか。新しい部下や上司とうまくいっていないという人もすでに出てきているかもしれません。 【写真】これから給料が「下がる仕事」「上がる仕事」全210職種を公開…! 経営学者であり、埼玉大学経済経営系大学院の宇田川元一准教授は著書『他者と働く』の中で、組織の課題は「ノウハウやスキルで一方的に解決ができない」と言います。特に向き合うことが難しい問題を解くためには、相手の「ナラティヴ(=専門性や職業倫理、組織文化に基づいた解釈、物語、常識の枠組み)」を理解し、対話することが大切だと主張します。 では、「上司と部下」が本当にいい関係になるにはどうすればいいのか――。ロングセラー『他者と働く』から「部下の育成」のために必要な考え方を、一部抜粋・編集しお届けします。
部下や社員は「なぜ」育たないのか
部下や社員はなぜ育たないのでしょうか。この問題は、部下を持つあらゆる階層で発生します。 直属の上司部下の関係でも起きますし、大きなところでは、経営者の交代(とりわけ創業者から二代目への事業継承)でも生じます。 ここでぜひ考えてみたいのは、そもそも人が育つとはどういうことかということです。 仕事に対して必要な能力がその人の中に形成されることを人が育つと理解している人は多いと思います。だから、その仕事と能力の差を埋めることが、育成であるという考え方で、一般的には研修が行われたりしています。確かにそれも大切なことでしょう。 しかし、私は、人が育つというのは、その人が携わる仕事において主人公になることだと考えます。
教育が「ムダ」になるケース
先に述べた仕事で必要な能力がその人の中に形成される、ということについてもう一歩踏み込んで考えてみると、それは、当該の人ではなく、誰かが決めた仕事全体の中で、部品としてその人が機能するようになることを意味します。 しかし仕事の主人公になるとは、その人の仕事の中において、そうした「能力」を生かしていく存在になっていくことであると思います。 つまり、その人のナラティヴ(=専門性や職業倫理、組織文化に基づいた解釈、物語、常識の枠組み)の中に、様々に学んだことが意味のあるものとして位置づけられるようになる必要があります。この相手なりの仕事のナラティヴの形成という側面を抜きに、「能力がない」と一方的に決めつけても、意味の感じられないことに頑張れないのは当然です。結果的には能力も伸びませんし、場合によっては辞めてしまうかもしれません。 この主人公、ないし当事者としての側面がうまく構築されていかないと、いつも頑張っているのに認めてもらえない(他者視点での自分の評価に依拠している)、仕事の意味を感じられない(生活のためにつまらない仕事を我慢している)、自分が生かされていない(自分のために組織があるという過度な自己意識)という状態から抜け出せないまま、悶々として過ごすことになります。 事実、内閣府の調査(国民生活に関する世論調査 平成26年度)でも、「お金を得るために働く」と回答した人は51%であるのに対して、「社会の一員として、務めを果たすために働く」と答えた人の比率は14・7%しかおらず、さらには「自分の才能や能力を発揮するために働く」と答えた人は、わずか8・8%しかいませんでした。 このような状態の人に、いくらタスク遂行能力を身につけさせようと、研修をしたり、本を読ませたり、色々と過去の話を聞かせたり、どんな努力をしても、結局それは、当人の人生にとって意味が感じられないので、忘れていってしまいます。結果、「能力」すら大して向上しないでしょう。