上田誠仁コラム雲外蒼天/第45回「インカレの舞台に立つ難しさ~走ることを楽しみ、意義を見出して~」
走ることを楽しみ、走ることの意義を見いだしている
インカレ期間中などで、前述のような練習時間が各大学と重なる中で走っている姿を見かけるたびに、「お~い純平。頑張れよ!」と声をかけていた。 大学を卒業後はそうそう顔を合わせる機会もなくなるだろうと思っていた。 そんな矢先の2019年のおかやまマラソンを2時間17分37秒で2位、翌年の2020年高知龍馬マラソン優勝。市民ランナーとしての活躍を目にするようになった。 そんなこんなでたびたびネット上で見かけるようになり、なんと2022年の第31回IAU100km世界選手権(ドイツ・ベルリン)の日本代表となっている。この大会では個人として銀メダル、チームジャパンとして団体金メダルを獲得している。 東京マラソンや福岡国際マラソンなどにも参加しつつ、ウルトラマラソンランナーとしての活躍が目覚ましい。ポップで派手目のウェアーで走る姿の山口選手の市民ランナーとしての認知度が浸透してきているのを感じている。 月間走行距離が1000kmを超える月もあるそうで、一般社員として仕事をこなしつつトレーニングを継続してゆくことは並大抵のことではないと思い本人に聞いてみた。 「市民マラソンの大会に参加させていただくようになって、走ることを楽しんでいる方々から刺激をいただいて今がある。だから走ることの楽しさを見失わないように取り組んでいる。ウルトラマラソンも苦しみはあるが、その先の喜びや楽しさがあると想像できれば今の苦しみも楽しみに変わる。高校駅伝や箱根駅伝に向けて、その大会で走れなければ意味がないと自分を追い込んでいた時期があった。だからこそ今の楽しさを見つけることができた。会社を含めて応援していただいている方々に、自分が頑張っていることによって喜んでいただけると思うと今日も頑張れる」と語ってもらった。 ランニングウェアーのELDORESOを展開している株式会社タイムマシーンの阿久澤隆社長は、国士舘大学で添田正美前駅伝監督の1年先輩にあたる陸上部のご出身とお聞きした。 「2019年に卒業する走ることが好きな学生を紹介してほしい」と添田前監督に依頼したところ山口君を紹介されたそうだ。 早速どのような競技実績があるのかネットで検索してみたものの、何も主だった競技成績が出てこない。再度どのような選手なのか添田前監督に確認したところ、「山口は一生走り続けるような子ですよ」と推薦されたそうだ。 その言葉通り走り続け、走ることを楽しみ、走ることの意義さえも見出している。 昨年のサロマ湖100kmウルトラマラソンでは6時間6分08秒の日本新記録を達成している。世界記録はリトアニアのA.ソロキン選手が持つ6時間5分35秒(1km平均約3分39秒のペース)だ。 その33秒に挑むサロマ湖100kmウルトラマラソンが6月に開催される。楽しみを見失わず走った先に、新記録達成が成就されることを願ってやまない。 そういえば2014年2月に甲府市内のホテルで高校駅伝優勝の報告会を行ったとき、甲府市は気象観測始まって以来の豪雪に見舞われてしまい、交通機関が完全にストップしてしまった。 報告会に参加していた山口君のお母さんは、量販店で長靴を買い求め徒歩で笹子峠を越え中央本線の始発に間に合うように夜通し歩いて帰ったと聞いた。 5人兄弟の次男である山口君なので、お母さんが弟や妹のことを考えて徒歩で山越えを果たしたパワーは、確実に遺伝子として山口君に受け継がれていると確信している。 「ガンバレ純平!」
月陸編集部