「箱根駅伝は分かりません! 黒田が12位です」テレビ実況も“ダマされた”…青学大2区・黒田朝日“12位からの大逆転劇”、記者が見た「最強留学生への戸惑い」
「最初に遅く走ったもん勝ち」
そしてもうひとり、エティーリ・ファクターから無縁だった選手がいる。区間17位で後方から走り出した創価大の吉田響だ。彼も自分の走りに集中することができたことで、後半の急激な順位上昇につながった。 ここで平林、篠原、黒田、吉田のチェックポイントでの区間順位を見てみよう。 より早い時間帯でエティーリの影響を受けた平林は途中で順位を上げたことで、終盤に番手を落としている。篠原はエティーリに追いつかれてから並走を決断、それによって後半の伸びを欠いたと見られる。 黒田は12→6→3と順調に上げる見事なマネージメント。そして吉田は溜めて、溜めて、末脚を爆発させて従来の区間記録を上回った格好だ。 このように見ていくと、今回の2区は「最初に遅く走ったもん勝ち」だったのである。
「最後の坂、手を使いたかった」
平林と篠原にも、同じようなマネージメントは可能だったとは思うが、「優勝候補」に挙げられていると、自分の実力だけではなく、相手との「駆け引き」が生まれてしまう。ある程度、エティーリを追走することが利益につながると判断したのだろうが、それがマイナスに働いてしまった。 平林は、「速すぎます。中盤でくっついていきすぎて、権太坂で苦しくなってしまいました」と振り返り、篠原も最後にダメージを食らい、「最後の坂は壁でした。手を使って上りたくなるくらいでした」と実感のあるコメントを残した。 2人のうち、特に平林にはキャプテンの重責も影響したと思う。3冠に王手をかけたことで、メディアから「期待のインフレ」が起きていた。そうなると、レース中に番手を下げること自体に恐怖が生まれかねない。難しいレースマネージメントになったと思うが、それでも前回と比較してマイナス12秒にとどめたのは、平林がこの1年で実力を上げたからだろう。
原晋監督の名マネージメント
さて、青山学院である。 特筆したいのは、4区の太田だ。3年前、そして前回のような「決定打」を放つまでには至らなかったが、2位に進出し、先頭の中大との差を2分24秒から45秒にまで詰めて、5区若林の快走につなげた。 記録を見ていくと、太田は駒大との差を32秒から1分32秒、国学院との差を53秒から1分38秒にまで広げている。この時点でライバル2校を「危険水域」まで追い込んだのだ。 今回は先頭に立つわけでもなく、派手な走りではなかったかもしれないが、太田の「実のある走り」は、やはり青山学院の大きな財産だった。5区の若林が区間新の快走を見せたのも、太田が好位置でつないだからだろう。やはり、青山学院には駅伝力を強く感じる。 今年の青山学院の4年生は、全員が口を揃えて「自分が優勝を決めます」と話していた。 太田は若林のお膳立てをする形となり、いまのところ決定打を放ったのは若林ということになる。しかし、まだ札が残っている。復路の6区には野村昭夢が控える。前回は58分14秒で区間2位だった野村のターゲットは区間記録の更新、そして前人未到の56分台突入だ。そんな走りが実現するなら、決定打になる可能性が高い。 11年間で8度目の総合優勝となれば、その優勝回数は駒澤大と並び、歴代6位の数字となる。 果たして2025年1月3日、どんな結末が待っているだろうか。 <《青学大キャプテン》編に続く>
(「スポーツ・インテリジェンス原論」生島淳 = 文)
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