春風亭一之輔、「アトランチスの謎」に気を取られている隙に…おばあちゃんのぽたぽた焼は「甘じょっぺえはずなのにほろ苦い味」
「すげー、美味いよ。これ!」。知るか! オレのカールを盗んだくせによくぬけぬけとそんなことが言えるな。私の埼玉の伯父さんがおまわりさんなので、帰ったら親に頼んでコイツを逮捕してもらおうと心に決めた。 「これ甘じょっぱいんだぜ。めちゃ美味いんだ! すげーサイコーだよ!」。語彙がひどい。第一、こんな子どもだましみたいなばばあのイラストの入った煎餅が美味いわけない。こんなものただの「黄ばんだソフトサラダ」だろ。このカール泥棒め。 「食ってみ! うめーから!」 あんまりしつこく勧めるので「わかったよ……でもカール盗んだの謝れよな……」とブツクサ言いながら、小袋を開けて1枚口にしてみた。 「………なんだ、これ……めちゃ美味い、そして甘じょっぺぇ……サイコー……」 ■うめえ。うめえよ。 「だろ? いっぱい食べていいってさ! 食べようぜ!」と言いながら友だちはバリバリと「おばあちゃんのぽたぽた焼」を飲み物のように食べ始めた。相変わらず品のない食べ方だ。沢山あるのに何をそんなに慌てるのか。パッケージのイラストのばばあも「ゆっくり食べんしゃい」と言ってる(ように見える)だろが。 私はもったいないのでじっくりと食べることにする。1枚目は初めての経験なので、ついついがっついてしまった。2枚目はもっとぽたぽた焼を味わってやろう。一口パリッと割って、かけらを口にふくむ。カールを食べる要領で、唾液で湿らせてみる。口の中にぽたぽた焼の甘じょっぺえヤツがドンドン広がっていく。うめえ。うめえよ。もう一口、そしてもう一口。ゆっくりゆっくり甘じょっぺえのを楽しむのだ。
そのうちかじるのをやめて、舌先で甘じょっぺえのを舐めてみた。頭の中に電流が走る。舌の動きが止まらない。ペロペロペロペロ……。おばあちゃんのぽたぽた焼を舐め回す。味がなくなったらふにゃふにゃになった煎餅を食べる。味がなくなったとはいえ、まだうっすら残っている薄甘じょっぱさは楽しめる。 気がつくと友だちがまたファミコンをしていた。ソフトはサンソフトの「アトランチスの謎」。冒険家が巨大な謎の島、アトランチスを冒険するスーパーマリオっぽい横スクロールのゲーム。上手い。ドンドン進んでいく。観ているだけで楽しい。そしてぽたぽた焼も美味い。なんて美味いんだ。友だちはファミコンが上手い。なんて上手いんだ。食い意地が張ってるくせに手先は器用。 「アトランチス、やってみ」 ■オレはまだ2枚しか食べていない コントローラーを渡され、やったことのないゲームをやることになった。スタートして5秒で主人公が死んだ。コウモリの糞に当たったら石になって死んだ。ウンコに当たって死ぬようなひ弱なヤツは冒険なんかするな!! そんな虚弱体質でなんで「アトランチスの謎」が解けると思ったんだよ!! お前は自己評価が高過ぎる!! と後々になって憤った。 「クソつまんねーなー、これ」と言いながらぽたぽた焼の袋に手を伸ばすと中は空だった。なぜだ? オレはまだ2枚(小袋一袋)しか食べていないのに!? 「何枚食ったんだよ!」と私は友だちに聞いた。 「さぁ(笑)」 「さぁ?」 「いーだろ? だってこれ、俺んちのぽたぽた焼だし」