今期の「視聴者おいてけぼり」ドラマ二作 「登場人物の心情がサッパリ分からない」「『おむすび』のキャラ造形に似ている」
登場人物の心情がさっぱり分からない。もちろんすべてに共感することもないが、こんなにも共感できない・理解できないとなると、私の問題なのだろう。キャリアも技もある若手俳優を集めた群像劇で、なんならほぼ好きな布陣なのに、まったく入り込めずに悲しい(悔しい)。「分かるぅ~」と言いたいのに、おばちゃんおいてけぼりや。そんな二作を雑にまとめてみる。 【写真をみる】ナカミは拍子抜けだけど…キャストには「今が旬の美人女優」がズラリ
まずは日テレの「若草物語」。4姉妹といえば「若草物語」か「阿修羅のごとく」だよね。名作プレッシャーをはねのけることを期待したが、最初からつまずいた。 主役で自己主張の強い次女(堀田真由)が、非恋愛主義というやや手垢のついたテーマを声高に語るのはまだいい。無職になっても、都合良く大御所脚本家に拾われるのもいい。それよりも三女(長濱ねる)が2年も音信不通。LINEで既読もつかず。着の身着のまま蒸発。「姐さん、事件です!」と思うんだが、姉妹は安否確認を徹底せず、LINEを連打するだけ。金と男に奔放なクズ母(坂井真紀)にも甘い。セクハラ上司&モラハラ彼氏に思考停止の長女(仁村紗和)もちゃっかり四女(畑芽育)も、仲良し姉妹の体だが、心を開いているとは思えず。「過干渉なのか無関心なのか、どっちなんだい!」と脳内でなかやまきんに君が暴れ始める。
三女の失踪の理由が、女優を目指すも接待要員か夜の蝶にしかなれない自分と比べて、鼻息荒く夢にまい進する次女の言動がうっとうしかったから。都合良くナイスガイ漁師に拾われて、漁師町に住みついていたという。 怒るべきところで怒らないが、抑えるべきところでも抑えない。心情背景が理解できないこの感じ……、朝ドラ「おむすび」の人物造形と似ている気もする。 もう一作、テレ朝の「マイダイアリー」。子役時代から活躍したり、静謐(せいひつ)な演技で胸を打ったり、ドラマ界を長年背負うであろう役者たち……五人ともドラマ界で期待の星だが、演じる人物が繊細すぎて、拍子抜けと肩透かしの連続なのよ。 それぞれが抱えるトラウマや家族との確執が「え? そんなことでここまで引きずる?」という印象。登場人物と同世代の人は共感したり、響いているの? フラジャイルにもほどがある。 そうか、これはエンパスか。他人の感情に共感し過ぎるエンパスの生きづらさはあるだろうが、「人前であくびできない」「同級生の父親に誘拐されかけたトラウマ」は正直ぬるいし、「面接すっぽかして赤の他人の心の傷に寄り添う」のもまったく理解できない。「病床の母に対する家族の言葉に怒り、海にまくはずだった母の遺灰を持っている」妹の感情移入もよく分からないし、これに対して姉が激高するのも分からず……。 急激な感情失禁を当たり前に受け止めるが、責めない・追わない・問い詰めない。疑問を解消せずに受け流す。殺伐とした世の中だからこそ、配慮と優しさで生ぬるく包み込む……これが令和ドラマの主流になるとしたらツラい。私の心の中のなかやまきんに君も暴れ過ぎて過労になりそうだ。
吉田 潮(よしだ・うしお) テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。 「週刊新潮」2024年12月19日号 掲載
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