「最後のルノー・スポールだし、手元に1台置きたくなる」 モータージャーナリストの森口将之がルノー・メガーヌR.S.ウルティムほか5台の注目輸入車に試乗!
クルマに乗りたい、走りたいという気持ちになれるのは、やっぱりガイシャだ!
モータージャーナリストの森口将之さんがエンジン大試乗会で試乗した5台のガイ車がこれ! アバルト500eツーリズモ・カブリオレ、アウディQ8スポーツバック 55eトロン、BMW XM、フィアット・ドブロ、ルノー・メガーヌR.S.ウルティムに乗った本音とは? 【写真25枚】モータージャーナリストの森口将之さんがエンジン大試乗会で乗った5台の注目輸入車の写真を見る ◆個性がはっきり分かる 2023年からの日本の自動車業界のニュースを受けての大試乗会。やっぱりガイシャはいいと思いました。今回乗ったのはすべて欧州車。スケジュールやコストも大事にしていると思うけれど、それを感じさせないぐらい、デザインやサウンドやハンドリングで楽しませようというアピールが刺さりました。電動化も仕方なく取り組んでいるのではなく、エンジンではできない魅力を提供しようという気持ちが伝わってきました。同乗したEPC会員のおふたりは、これまで未体験のジャンルだったらしいですが、個性がはっきり分かるという話をしていました。こちらから誘導したわけでもないのに、2人とも僕の愛車のトゥインゴの話を持ち出してきて、根はいっしょなんだと嬉しくもなりました。なのでこれからも変わる必要はないと思っています。クルマに乗りたい、走りたいという気持ちになれるのは、やっぱりガイシャだと感じました。 ◆アバルト500eツーリズモ・カブリオレ「失ったものは少ない」 電気自動車なのにお尻から響いてくるデロデロサウンドが、オープンにしたことでどうなるか気になった。結果は上々。リアウインドウまで開け放つと、背後から届いてくる感じが、昔のリアエンジンのアバルトを思わせる。リアウインドウを立てると控えめになって、むしろ閉めたほうが堪能できるけれど。 駆動は前輪なのだが、ガソリン車のアバルトのようなフロントヘビーではなく、バッテリーのおかげで低重心にもなっているので、乗り心地はひょこひょこした揺れが抑えられて重厚になったし、ハンドリングもバランスがアップした。リアからはちゃんと音が聞こえてくる。電動化しても失うものは少なく、逆に得るものが多い。これまでアバルトが多用していた赤をあっさり捨て去り、ブルーとイエローをテーマカラーにしたことにも感心した。ボディはもちろん、インテリアはメーターやセンターパネル、シートのステッチを2色使いにしている。アバルトらしさとEVらしさを絶妙にミックスしたコーディネートで、この色だけで欲しくなる。 ◆アウディQ8スポーツバック 55eトロン・クワトロSライン「前向きな思想にワクワク」 アウディはフロントにエンジンを縦置きし、クワトロシステムで4輪を駆動するというパワートレインをアイデンティティとしてきた。その威力はWRCなどで立証済みだけれど、高性能エンジンを積む車種ほどノーズが重くなり、乗り心地やハンドリングに影響が出るというジレンマも付きまとった。しかもカーボンニュートラルを目指すには、高性能は足枷だった。 そんな状況を思い浮かべながらこのクルマをドライブして、アウディと電気自動車はとても相性がいいと感じた。動力性能と環境性能を両立できるうえに、バッテリーを床下に置き前後のモーターで4輪を駆動するので、乗り心地やハンドリングを理想に近いレベルに持っていけているからだ。 電気自動車を敬遠する人が、日本には今も多いけれど、アウディは新しい技術に対して否定から入るのではなく、常にプラス思考で向き合い、取り入れている。その結果、このブランドが目指す理想に近づいているような気がする。なによりも前向きな思想が、僕たちをワクワクさせてくれる。 ◆BMW XM「好き嫌いを超えて尊敬」 とにかくすべてが攻めている。振り切っている。現行7シリーズでもそう感じたけれど、さらなる上を見せつけられた思いだ。 XMと聞くと僕は反射的にシトロエンを思い出すので、対極にあるようなスタイリングは受け入れないけれど、それでも結構! という言葉が返ってきそうなほど、スタイリングもカラーも突き抜けている。敵ながらあっぱれだ。伝統的な富裕層ではなく、Z世代のミュージシャンやアスリートなら、このテイストを歓迎しそうな気もするし。 走りもその姿に負けないぐらいアグレッシブ。プラグイン・ハイブリッド車というと日本ではエコカーという認識なのに、4.4リッター V8ツイン・ターボにモーターを組み合わせ、迫力のサウンドまで届ける。ボディはポルシェを思わせるソリッド感で、乗り心地は硬質。おかげで2.7tの巨体を自在に曲げていける。 カーボンニュートラルというテーマを出されても、おとなしくはしない。できることをやり抜いていく。好き嫌いを超えて尊敬できる部分である。 ◆フィアット・ドブロ「基本の設計思想に感謝」 ドブロに触れる機会があったら、スライド・ドアの開口部を見てほしい。日本の多くのミニバンと違って、ちゃんとサイドシルがある。たしかに乗り降りのたびに、敷居を跨ぐような動作は必要。でも走り出すと、こんなに背が高いのになんで?と思ってしまうほど、しっとりした乗り味に魅了される。 そのテイストはフィアットというよりはシトロエン的で、シャシーのチューニングは姉妹車のベルランゴと同じようだけれど、リラックスして過ごせるのだからキャラクターにはお似合いだし、基本を大切にした設計思想に感謝したくなる。 ディーゼル・ターボの粘り強さと、的確に変速する8速ATのコンビにも感心。背の高い箱をストレスなく動かしつつ、高速道路では航続距離の長さを発揮。どこまでもいけそうという気持ちにさせてくれる。 デザインはプジョーを含めた3姉妹の中ではツール的。この点はフィアットらしい。なので最近限定車で登場したロングボディの2列シート仕様が、もっともふさわしいのではないかと思っている。 ◆ルノー・メガーヌR.S.ウルティム「懐かしい息吹」 まず感じたのは乗り心地の良さ。やっぱりセカンダリー・ダンパー内蔵のハイドロリック・コンプレッション・コントロールが効いていると実感するし、ウルティムだけに装着される軽量アロイホイール“フジライト”も貢献しているのだろう。高速道路ではルノーらしいフラット・ライドもしっかり感じ取れる。 それでいてコーナーでは、4コントロールのおかげで低速での回頭性と高速での安定性を両立し、立ち上がりはダブルアクシス・ストラットがトルクステアを抑えてくれる。しかも人工的ではなく、ドライバーの手足の動きに応え、速さを紡ぎ出していくという、今のクルマとしては稀有になりつつある感触。だからもっと走ろうという気持ちにさせてくれる。 エンジンはターボの盛り上がりや迫力のサウンドなど、こちらも懐かしいガソリン車の息吹。それでいてアダプティブ・クルーズコントロールのおかげでイージー・ドライブも手に入る。リアシートにも大人が座れるし、真にオールマイティなスポーツマシン。最後のルノー・スポールだし、手元に1台置きたくなる。 文=森口 将之 (ENGINE2024年4月号)
ENGINE編集部