フランス人が「日本の芸能」を見て「衝撃の感想」を漏らした理由…観客が「日本人らしいわね」と言った深い意味
1300年以上も前から続く、日本の伝統芸能「太神楽」。かつてお正月のテレビ特番などで、くるくると回る和傘に枡やボールを投げ込み「おめでと――ございます」と掛け声をする芸人を見たことがある方もいるだろう。 【マンガ】カナダ人が「日本のトンカツ」を食べて唖然…震えるほど感動して発した一言 そんな「日本のおめでたい意味」をぎゅっと詰め込み、縁起を祝う芸として知られる太神楽の世界に魅了され、30歳で足を踏み入れた鏡味味千代さんは、女性の太神楽師として国内外をまわり「おめでたい」を祝い続けてきた。 もともとは海外に憧れ、高校時代にフランスに留学していたという鏡味さんは、2013年にはじめて一人での海外公演でふたたびパリを訪問。『ジャパン・エキスポ』に呼ばれ、芸を披露することとなった。 しかし、芸を魔術のようにとらえる歴史を持つフランスでは、曲芸師は物乞いと同じように扱われてきたことや、キリスト教の「祈り」の意味から「芸を通じて人々の幸せを祈る芸能」への太神楽の理解はなかなか難しい。 もともと「ない価値観」を鏡味さんはフランスでどう伝えたのか。<「日本人ってキスするの?」…芸人がフランスで唖然とした「外国人から見た日本」衝撃のイメージ>に引き続き、お伝えしよう。
枡で「ますます繁盛」が通じない
舞台冒頭に太神楽の説明を入れたのだが、この考え方の違いのために会場は「スン」とした静かな空気になってしまった。 内心慌てたが、とにかく芸にまつわる意味を説明しつつ「説明では理解してもらえないかもしれないけれど、日本には『笑う門には福が来る』という諺もある。太神楽を見て楽しいと思えたら、それだけで幸せがやってくるので楽しんでください」と言って、風習の違いをなんとか納得させた。 このフランスで一番好評だったのが『五階茶碗』という芸だ。顎の上に立てた棒の上にさらに道具を重ねてバランスを取る。道具と道具との間に毬を挟むなど、緊張感たっぷりだ。 「日本らしい芸ね」と言われた。フランス人からは、どうやら“バランスを取る”ということが、調和を重んじる日本人らしいとのこと。 『五階茶碗』の反応は日本以上で、最も危険な技の時には、一番前に座っていた観客が逃げ出したり、スタンディングオベーションをいただいたりと、あまりにもダイレクトな反応にこちらが驚いてしまった。 一方、日本でもおなじみの『傘回し』では、初日のステージで出鼻をくじかれた。 まず、傘回しに使う和傘。これを私が「parapluie(=雨傘)」と訳すと、すごく不思議そうな顔をされたのだ。 太神楽の和傘は防水加工していないので雨の日には使えず、しかも普通のものよりも大きい。したがってフランスでは「parasol(=パラソル/日よけ用の傘)」と言わないければいけないのだ。 また傘の上で回す毬は「balle」だけど、投げる技の時に使うサッカーボールくらいの毬は「ballon」。毬の大きさで名詞が違うので、それも使い分けないとならない。なるほど、言葉にうるさいフランスのお国柄がよく表れている。日本でならば、傘もボールも違いはほぼ気にされないだろう。 さらに和傘の上で枡をくるくる回す芸は、「ますます繁盛」という意味として縁起良く締めくくれるので、日本ではたいてい“トリネタ”となる。そのノリで、フランスでも初日のステージでは傘の上で枡を回して締めたのだが同じようにはいかず、尻すぼみのような、何とも言えない気まずい空気になってしまった。 そう、じつは日本以外の国に枡はない。なので傘の上で枡がくるくると調子よく回っても「ますます回ってますます繁盛」というワケにはいかず“ポカン”とされてしまった。 次のステージからネタの順番を入れ替え、傘の芸を最初に、トリネタにはフランスで一番受けの良かった五階茶碗を披露した。 結果は大正解。つかみの芸で盛り上がり、なんとなくのイメージが伝わったところで、おめでたい意味の解説をすると「スン」と静まり返ることなく、その意味を納得してくれるフランスの観客も出てきた。やってみて気づかされることは沢山ある。