低視聴率『おむすび』はNHK前会長の“若者ねらい路線”の象徴…「定番シーンの省略」で朝ドラ愛好層もガックリ
『おむすび』独特の肩透かしエピソードに時間を費やしている
家族を描き切れていないのはほかのことの描写に時間が費やされているから。書道、野球、ギャル、パラパラ。ほかにも『おむすび』独特の肩透かしエピソードである。 まず第17回、姉・歩(仲里依紗)が若き日の敵である天神乙女会の明日香から勝負を挑まれた。決闘を思わせた。しかし次の第18回で分かった勝負の中身はラーメンの大食い対決だった。 第27回、歩の付き人を名乗る佐々木佑馬(一ノ瀬ワタル)が米田家にやって来る。「歩さんは大女優」なのだという。福岡には東京と同じく7つのテレビ局があるから、本当に大女優であるなら家族が気付かぬはずがない。釈然としない話だった。 大女優のエピソードは第30回まで延々と引っ張られたが、オチはカラオケの映像に登場する女優だった。そのままカラオケ大会となり、歩とハギャレンのメンバーらが浜崎あゆみ(46)の『Boys & Girls』(1999年)を熱唱するシーンが描かれた。平成青春グラフティと謳(うた)っているので、このシーンをつくりたかったのだろう。
NHK前会長・前田氏がねらった若者ウケだったが…
『おむすび』は昨年1月に退任したNHK前会長・前田晃伸氏(79・元みずほフィナンシャルグループ社長)の在任中に企画された。 前田氏は常時12%前後の視聴率を誇っていた健康情報番組『ガッテン!』や『バラエティー生活笑百科』など中高年に愛された番組を2022年度末で打ち切ったといわれる人物。一方で、同4月には平日午後10時45分から同11時半は10~20代を狙った若年層ターゲットゾーンにした。前田氏は若い視聴者の獲得に躍起(やっき)になっていた。 若者のテレビ離れが深刻なことに前田氏は危機感を抱いていたのである。『おむすび』にも前田氏の意向が反映されたのではないか。そう考えると、ほかの仕事と掛け持ちになるにもかかわらず、主に若者に人気の橋本を主演に起用したのもうなずける。 ギャルやパラパラなど50代以上があまり好みそうにない要素をふんだんに採り入れたのも腑(ふ)に落ちる。序盤で家族を細かく描くというセオリーを踏襲しなかった件もそうだ。はじめから50代以上は強く意識していなかったのではないか。 不思議とあまり知られていないが、昨年10月からNHKは多くの学生に対し、受信料の支払いを免除している。たとえば親元から離れて暮らし、扶養されている学生、奨学金を受給している学生らである。これも前田氏の若者対策だ。 ただし、残念ながら『おむすび』は若い層の視聴率も低迷している。 <文/高堀冬彦> 【高堀冬彦】 放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞社の文化部専門委員(放送記者クラブ)、『サンデー毎日』編集次長などを経て独立。月刊誌『GALAC』(放送批評懇談会発行)前編集委員。現在は『デイリー新潮』『婦人公論jP』『JBPRESS』 『日刊SPA!』などに執筆中
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