低視聴率『おむすび』はNHK前会長の“若者ねらい路線”の象徴…「定番シーンの省略」で朝ドラ愛好層もガックリ
『ブギウギ』『虎に翼』での家族描写
近作はどうだったのか。『ブギウギ』の主人公・福来スズ子(趣里)は第20回の時点で、自分が香川県の名士で既に亡くなった治郎丸菊三郎の娘だと教えられる。第21回で実母が次郎丸家の元女中・西野キヌ(中越典子)だということも知った。20歳のときだった。 スズ子は強いショックを受けるが、お調子者の父親・花田梅吉(柳葉敏郎)ときっぷのいい母親・ツヤ(水川あさみ)には話さず、2人への慈しみと感謝を強める。この作品の序盤はスズ子が12歳で入団した梅丸少女劇団(USK)と家族のことしか描かれていないと言っても過言ではない。 『虎に翼』は主人公・猪爪寅子(伊藤 沙莉)が第1回、第2回で不満げにお見合いに臨み、それを叱る母親・はる(石田ゆり子)の保守性と厳しさが浮かび上がった。逆に庇(かば)った父親・直言(岡部たかし)のやさしさや寛容性が浮かび上がった。 第4回ではるは法律家を志した寅子に対し、自分が女学校へ行かせてもらえなかったこと、家業に役立つ政略結婚をさせられそうになったことを明かす。ここで作品側ははるの生育歴を自然な形で視聴者側に伝えたのである。はるは寅子の法律家志望に猛反対していた。 しかし、第5回で東京地裁判事・桂場等一郎(松山ケンイチ)が寅子の法律家志望を侮辱すると、はるは憤怒。寅子が法律家を目指すことを許す。この時点で寅子の負けず嫌いがはるから受け継がれたことが分かった。 直言の気性と生育歴は第20回からの「共和事件」のエピソードに織り交ぜられていた。エリート銀行員だが、優柔不断。けれど、誰にでも親切。この作品の序盤もほとんどが家族と明律大学女子法科、明律大学法学部の描写に費やされた。
『おむすび』母の生育歴が不明で分からないことが多い
『おむすび』はどうかというと、家族に不明点がまだ多い。たとえば、米田結の母親・愛子(麻生久美子)の気性と生育歴である。 第10回、深夜徘徊で警察に補導されたハギャレン(博多ギャル連合)の真島瑠梨(みりちゃむ)の身元引受人になったことなどで、愛子がやたら物わかりのいい人だということは分かった。 第14回で愛子は義母の佳代(宮崎美子)に対し、ハギャレンが白眼視されることについて「外見で判断されちゃうからね。私がそうだったし」と漏らす。佳代は「名古屋の元スケバンやもんね」と応えた。その言葉に愛子は「やめてよ、そんな昔の話」と照れる。 元スケバンだと子供の行動にも寛容になるという考え方は短絡的過ぎると思うが、それはともかく、愛子がどうしてスケバンになったのかがまだ分からない。 生育歴が不明のままだと気性や行動パターンもはっきりと見えてこない。阪神・淡路大震災のあと、結の父親・聖人(北村有起哉)の故郷である福岡・糸島に躊躇(ちゅうちょ)なく移住できた胸の内も分からない。 愛子の気性が詳らかにならないと、その血を受け継ぎ、育てられた結の人間性も分かりにくい。まだある。生真面目でやや神経質な聖人と大らかでサバサバしている愛子はどうして結ばれたのか。