原発が“がん治療薬の生産工場”に!? 再稼働へ動きはじめた高速炉「常陽」の可能性
政策アナリストの石川和男が10月5日、自身がパーソナリティを務めるニッポン放送Podcast番組「石川和男のポリシーリテラシー」に出演。原子力発電所でがんの治療に役立つ放射性元素が生み出される技術について、専門家と議論した。
国が実用化を目指す次世代原子炉の一つで、原発の使用済み核燃料を再利用する高速炉。茨城県大洗町に国内唯一の実験炉「常陽」があるが、2007年に装置が破損し稼働を停止。その後、事業者の日本原子力研究開発機構が2026年度半ばの再稼働を目指し安全対策工事の実施を計画していた。工事には県と町の了解が必要だが、9月6日に茨城県と大洗町は「常陽」の安全性や必要性を確認。周辺自治体からも異論がなかったことなどから、工事の開始を了解した。今後、再稼働までに必要な地元自治体の了解などの手続きはなく、事実上、再稼働が認められたことになる。 この「常陽」をめぐっては原子力規制委員会が9月4日、がんの治療薬として期待される放射性元素を生産するための実験装置を追加することについて、「新規制基準に適合する」との審査書案を取りまとめている。今後、文部科学大臣などの意見を聞いたうえで、正式に許可される見通しだ。 番組にゲスト出演した東京都市大学理工学部教授の高木直行氏は、がんの治療薬として期待される放射性元素「アクチニウム225」について「これまでも色んな放射性物質ががん治療や診断に使われてきたが、なかでもアクチニウム225は『標的アルファ線療法』という療法で用いる核種。がん細胞の表面だけにあるタンパク質にくっついていく分子に、アクチニウム225をくっつけて注射することで全身に転移したがんにも行き渡らせることができる。がん細胞の表面にくっついてからアルファ線を出すため効率的で、さらにアルファ線は図体が大きくあまり遠くまで飛べないため、細胞のサイズでいうと3個程度で止まってしまう。つまり、がん細胞だけにエネルギーを与えて、周りにある正常細胞には悪影響がないメリットがある」と解説。 体の外側から放射線をあてる従来の放射線治療では、周辺の正常細胞もダメージを受けるが、アクチニウム225を用いた療法は体内からがん細胞を攻撃するため、患者への負担軽減が期待できると明かした。そのうえで、将来的には「ワクチンのように患者が病院に行って点滴を定期的に3回程度受けるだけで、がんが治っていくかもしれない画期的な方法」だと期待を寄せた。 一方で、アクチニウム225の供給量や生産体制について高木氏は「半減期が10日。自然界には宇宙ができたころにはあったが、今はすべてなくなっている」と指摘。現在、アクチニウム225を供給しているのはアメリカとロシア、ドイツの3か国だけで、いずれも戦後の冷戦構造下で新たな爆弾の開発を進めるなかで生まれた副産物。供給量は限られており、3か国あわせても1000人~2000人分だという。高速炉では量産が期待でき、仮に原料となるラジウムが1グラム確保できたとして「常陽」1基で「いま世界で供給されているほぼ全量を一気につくることができる」(高木氏)と言い、現在高速炉をもつ国は中国とロシア、日本だけで、いわゆる西側諸国で生産が見込めるのはわが国だけだと述べた。 高木氏は、原子力規制員会の審査が前進したことは評価しつつも、今後の課題について「地球全体で数トンしかない」アクチニウム225の原料となるラジウムの確保を挙げた。国内にあるラジウムは「かき集めても1グラムないくらい」という希少な資源。世界的な需要も高まっており、争奪戦の様相を呈しているという。ほかにも、いくつかの技術的な課題のクリアや「常陽」を継続的に運転するための核燃料確保などが必要だと指摘した。 今回の議論について石川は「原発は発電以外にも、医療という非常に公益的・公共的なものに使えるということがわかっている。そういった原子力の有用性は人類にとっていいものであるということを研究者だけではなく国や政府もちゃんと言って、原子力に対する理解と用途が広がっていくことを期待したい」と締めくくった。