加給年金に「不公平」の声で制度廃止?2025年の年金改正に向けて議論されている内容をおさらい
加給年金が廃止されるとシニアのお金事情はどう変わる?
もし加給年金が廃止されたとしたら、シニア世代の年金額はどのように変わっていくのでしょうか。加給年金廃止を想定した今後の展望を解説します。 加給年金が廃止された場合、厚生年金に上乗せされる年金はなくなると考えられます。厚生年金に上乗せされる年金として、加給年金のほかに「振替加算」があります。振替加算は、配偶者が65歳になり加給年金の支給が打ち切られた際に、一定の条件を満たすと配偶者へ加算される年金です。 しかし、振替加算は加給年金ありきの制度のため、もし加給年金が廃止となれば、併せて廃止される可能性が高いでしょう。そのため、厚生年金に直接上乗せされる年金はなくなり、厚生年金保険の加入者は全員、加入期間や給料額によって受給額が決まることとなるでしょう。 加給年金が廃止された場合、年金額を増やす対策としては以下のことが挙げられます。 ・厚生年金保険に70歳まで加入する ・年金の「3階部分」を活用する 厚生年金保険は、原則70歳まで加入可能です。70歳まで働いて厚生年金保険の保険料を納め続ければ、その分受け取れる年金を増やせます。 また、年金の「3階部分」といわれる企業年金やiDeCoを活用すれば、1ヶ月あたりに受給できる年金合計額を増やせます。保険料の負担を減らしたい人は企業年金、自分で運用して年金を増やしたい人はiDeCoの利用がおすすめです。
2025年の年金改正に向けて議論されている内容
前章では、加給年金が廃止されたことを想定した年金事情を解説しました。では、国の審議会では、加給年金に対して実際にどのような議論が行われているのでしょうか。加給年金の矛盾点や問題点について、解説します。 ●加給年金の存在によって「繰下げ受給の判断が鈍る」 加給年金の問題点の一つは「加給年金があることで、年金の繰下げ受給に踏み切れない」という可能性がある点です。年金の繰下げ受給は、本来65歳から受け取れる老齢年金の受給タイミングを遅らせることで、受給額を増やせる制度です。 しかし、加給年金があることで目先の収入や家計のやりくりに目が行ってしまい、繰下げのタイミングを逃してしまう可能性があります。加給年金があることで年金増額のチャンスを失ってしまい、加給年金の支給停止後に収入が少なく苦しい生活を強いられる危険性があるのです。 年金受給を繰下げしている間は、加給年金が受け取れません。しかし、年金受給を繰下げすれば生涯にわたって増額して年金を受け取れます。加給年金の存在は、自由な年金受給の仕方を阻害している可能性があるといえるでしょう。 ●特別支給の厚生年金の年齢引き上げにより矛盾が生じる 国の審議会では「特別支給の老齢厚生年金と加給年金の存在は矛盾する」との指摘もされています。昭和60年の年金改正で、年金の受給年齢が60歳から65歳に引き上げられました。 この引き上げをスムーズに完了するために支給されているのが特別支給の老齢厚生年金です。 特別支給の老齢厚生年金は、男性が昭和36年4月1日以前、女性が昭和41年4月1日以前に生まれた人に対して支給されています。 特別支給の老齢厚生年金は、早くて60歳から支給が始まる年金です。もし配偶者が特別支給の老齢厚生年金を受給した場合、たとえ自身が加給年金の要件に合致していても、加給年金は受給できません。 つまり、一定の世代にとっては加給年金の制度自体が全く利用できない可能性があるのです。特別支給の老齢厚生年金の支給対象者は、まさに「働く男性」と「家庭に入る女性」であり、本来役割を果たすべき加給年金が十分に活用されていないといえます。 ●そもそもの加給年金の存在意義が問われている 「加給年金の制度自体が現代にそぐわない」というのも加給年金の問題点です。加給年金は、前述のとおり働く夫が家庭を支える妻や独り立ちするまでの子どもを養うために支給されてきた年金です。 しかし、現代では女性の就業率や単身世帯が増加しています。そのため、加給年金がなくても女性の厚生年金受給額が増える見込みがあったり、単身世帯と夫婦世帯の不公平性が著しくなってきたりしています。 現代において加給年金の制度自体は決して必要性が高くなく、むしろ年金受給額の格差を広げてしまう可能性すらあるのです。 政府も社会保険の適用を順次拡大してきており、将来的には誰もが国民年金や厚生年金を受け取れる可能性が増えます。加給年金の制度自体が本当に必要かどうかは、今後も議論の対象となりそうです。