「母さんが悪人なわけないよな…」誰かを悲しませる悪人が消え去った、“理想の世界”を描いた衝撃作【書評】
日頃は自身のエッセイや、読者から募集した体験談をやわらかくキャッチーな絵柄で描き、SNSを中心に多くの人々から人気をあつめるしばたまさん。本稿で紹介するのは、そんなしばたまさんによる創作マンガきれいな世界である。 【漫画】本編を読む
殺人、窃盗、詐欺、事件に事故。日々テレビやネットで流れる悪いニュースに、主人公・森田はウンザリしていた。そんな彼はある日、登下校の道中にある神社で神様にこうお願いする。「どうしようもない犯罪者や、これから犯罪を犯す奴らを消して欲しい。被害者のいない未来にして欲しい」と。
そんなお願いをしてから数日後、クラスのいじめっ子・西村と、彼の通う高校の副校長が立て続けに失踪する。不安になった森田がテレビをつけると、そこでも刑務所から集団で人が失踪した、とのニュースが。 もしや自分が神社であんなことを願ったからか、という思いが頭をよぎる森田。しかし一方で西村の不在によりクラスは明るくなり、日々のニュースからは暗い話題が減ったり。神様が願いを叶えたおかげで世の中は確実にいい方向に向かっているかのように見えた。
しかしある日、こつぜんと森田の母親が姿を消してしまう。自分にとっては良き母親だった彼女。しかしいなくなった彼女のスマホを森田が覗くと、なんと母はSNSで大勢の人々に匿名性を盾にして罵詈雑言を吐いていたのである。 身近な自分の母親が、神様に消される「犯罪者」側の人間だったことに愕然とする森田。しかし相変わらず世界ではあちこちから人が失踪し続けており、それが止む気配はない。 一体この世界はどうなっていくのか、そして森田はどうなるのか――。最後まで不穏な空気の漂う、本作はそんなサイコホラーテイストのショートストーリーとなっている。
元より大勢の人々から支持を得ている、ほんわかとしたやわらかいイラストのタッチと、物語のじんわりとした闇のギャップがやはり大きな魅力でもある本作。 またあわせてストーリーも人によって感想や意見がわかれるであろう、さまざまな切り取り方ができる内容である点もポイントだ。