「甘いな」と思っているのに「分かるよ」と共感を示す上司の過ち
行動変容にフォーカスした改善点の指摘が鍵
次に、3大NGコミュニケーションの一つである、改善点を指摘しない問題を考えてみましょう。「今の若者は、改善点を指摘してほしくないのではないか」と考える人もいるかもしれません。しかし実は、そんなことはありません。1990年代半ば以降に生まれたZ世代に「あなたは、上司に自分の間違いを強くはっきりと指摘してほしいですか」と質問したところ、「非常にそう思う」「ややそう思う」の合計が50%以上というデータがあります。さらに「なぜそう思うのですか」という質問には、「自分の成長につながると思うから」と答えた人が71.9%もいるのです。 つまり、「自分の成長が早まるように指摘してほしい」という思いが若手社員にはあります。とはいえ、理不尽な指摘は当然ながら嫌がられます。例えば、変えられないことに対する指摘は、やめるべきでしょう。具体的には、生い立ちや経験、学歴や職歴などです。これらを指摘されても、今さら変えることは無理ですよね。 そうではなくて、現在の行動をいかに適切に変えさせるかが重要になります。現在の行動なら変えられるからです。「まずはこんなことからやってみよう」などと伝えるといいでしょう。いかに行動にフォーカスして、上司が部下にフィードバックできるか。これが鍵となるでしょう。 最後に3大NGコミュニケーションの残りの1つである、「その場ですべての問題を解決しようとする」について深掘りしましょう。多くの管理職の人は、1on1ミーティングなどの限られた時間の中で、何かしらの解決策を見出したいと思いがちです。 しかし、人事部からは「評価者面談ではないので、1on1ミーティングでは雑談などをするように」と言われていたりします。そうすると、上司は頑張って部下と雑談しようとします。すると、かえって雑談がぎこちなくなり、若手社員との関係がギクシャクしてしまう場合も少なくありません。反対に雑談し過ぎるあまり、業務として非効率な時間になるケースがあり、これもよくない。 結果的に、雑談を恐れ過ぎてしまって、1on1ミーティングでも上司が部下と真面目な話をしたくなってしまい、「その場ですべての問題を解決しようとする」NGパターンに陥る人が増えてしまうのです。 とりわけ上司が実行してしまいがちなのが、「論破」と「誘導尋問」です。一時期テレビ番組をきっかけにはやった、「はい論破」と言いながら相手の話を論破してバカにするような態度は、テレビのエンターテインメントとしては面白いかもしれません。しかし現実に、上司と部下の当事者同士で、これを実行すると全く面白くありません。そんなノリで、「言いたいことは分かったから、まずは結果出そう」「そういう考え方では仕事で通用しないよ」などと部下の発言を頭から否定してしまったら、若手社員は何も言えなくなってしまいます。 もう一つの誘導尋問も、大きな問題をはらんでいます。例えば「本当にそれで目標達成できると思っているのか」などと部下を追い込み、上司の思い通りの答えを強引に言わせようとするパターン。部下が上司の思い通りの答えを言うまでミーティングを終わらせないという地獄に陥ります。こうした誘導尋問型の面談をやってしまう管理職はまだ意外に多く、「部下にとってよいことだ」と本気で思っている人もいるのが厄介なところです。 その場ですべての問題を解決しようとするコミュニケーションがNGな理由が、ご理解いただけたでしょうか。解決策に帰結させることが目的になり、部下との相互理解を深めることや部下の仕事へのエンゲージメント(働きがい)を高めるといった本当に大切な目的が見失われてしまうのです。 30分程度の1on1ミーティングですべての問題が解決できるのであれば、占い師にでもなった方がいいでしょう。それほど「難しいことだ」と認識し、「一歩だけでも前に進められたのなら、それでいい」と考えることが大切です。1on1ミーティングの頻度を高める理由は、ここにあります。 ぜひ管理職の皆さんには、今までのコミュニケーションでNGパターンをやっていなかったか振り返ってみてほしいと思います。 (構成 橋本史郎) 井上 洋市朗(いのうえ・よういちろう) カイラボ代表取締役 企業の早期離職防止コンサルティングを中心に、管理職育成、OJT(職場内訓練)担当者育成、人事力強化支援などを手掛ける。新卒入社後3年以内の退職者へのインタビューをまとめた『早期離職白書』を発行している。研修・講演機会も多く、年間登壇件数は約120件。ユーチューブの自社チャンネルからも情報を発信している
Yoichiro Inoue